母よ― 淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり はてしなき並樹のかげを そうそうと風のふくなり 時はたそがれ 母よ 私の乳母車を押せ 泣きぬれる夕陽にむかって りんりんと私の乳母車を押せ 赤い総ある天鵞絨(ビロード)の帽子を つめたき額にかむらせよ 旅いそぐ鳥の列にも 季節は空を渡るなり 淡くかなしいもののふる 紫陽花いろのもののふる道 母よ 私は知ってゐる この道は遠く遠くはてしない道 (「測量船」より)