高樹のぶ子【燃える塔】
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高樹 のぶ子〔著〕 出版 新潮社(新潮文庫 ) 発売日 2004.01 定価 本体438円 ISBN 4-02-330356-9 bk1で詳しく見る |
表題作「燃える塔」はじめ4つの短編からなる連作。
「眠れる月」「海からの却」「鳥たちの島」「燃える塔」
冒頭、ビールの空き缶の転がり方によって海底
を知るという描写など興味を引くことも多いが、と
ころどころ出てくる「……の感じ」という言葉遣い
は気になる
また、各編とも必ず出てくる性愛的な表現は必
要だろうか。
出撃を避けるため結婚し生き残った特攻隊中隊長の父を持つ「わたし」。父は、ある日突然自死してしまう。わたしは、真実を求めて父の人生をさかのぼって旅に出る。そこで出会った不思議な体験から、果たして真実に迫れるのか。
現実から何の前触れもなく、突如過去への旅にまでさかのぼり、時に現実に戻りつつそれぞれの物語は展開していく。
これは著者にとっていつかは書かれなければならなかった極めて個人的な物語だという。最初の2編を読んでいる時には「わたし」に沿っていた気持ちが、3編目「鳥たちの島」で立場を変える。
その島には、死んでいった特攻隊員の妻と子どもたちが暮らしていた。いや、正確には結婚していなかったのだから妻とは呼べないのかもしれないが、彼女節江さんは、「わたし」の父が詫びに来るのを待ち続けていた。
島には、死んだ「父の部下たち」が鳥になって住み着いていた。自死した父も、遅れながら島へ着く。
「父」が鳥になって島を訪れても、節江さんは許すことが出来なかったのか?次には父の妻(わたしの母)を待ち、また「わたし」をも待ち続けていたのだ。
父の卑怯な振る舞いを責められても、結果として生まれた「わたし」に、なすすべはない。
しかしこれを逆の立場から眺めた時、これまで「わたし」に寄り添ってきた気持ちは、たちまち節江さんの哀しみと同化するのだ。 (未完)
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