仁木悦子【青じろい季節】
青じろい季節(角川文庫) | |
![]() | 仁木悦子〔著〕 出版社 角川書店 発売日 1980.09 価格 ¥ 357(¥ 340) ISBN bk1で詳しく見る |
これも、何故か読んでいなかった。当時、一時に仁木氏の作品をいっぱい買ってきて読まないまま積読状態になっていたのだろう。タイプライターの後からクロネコが覗いている表紙絵はなじみがあったし、タイトルも周知のものという気がして眺めていたのだが。 20年以上も経って文字が立ってきたのだ。「銅の魚」の不思議な縁を感じる。 冒頭、住宅部分とオフィスとが同じ家の中にあるという設定は読んだ記憶があると思ったが、いやあれは確かマンションのはず、そう三影探偵ものだった。翻訳業というのも覚えがあるが、これは何だったのだろう。がしかし、(この本との)再会は嬉しい。紙は変色し、正直きれいな本だとは言えないが。
しかし、内容は男女の親子の人間としての愛を描いて秀逸だ。
いささか同心円的な状況設定で、悪く言えば都合がよすぎるような感は否めない。しかし、探偵役の主人公の仕事に対する誠実さはとても共感できる。
仕事に使っているのは、タイプライター。これも小道具として洒落ている。カタカタという文字送りの音が聞こえてくるようだ。
そういえば、自分が使っていたタイプライターはどこへしまい込んだのだろう。結婚したときに持ってきたのは確かだし、処分してなんかいない。あのタイプライターのおかげで、ワープロもパソコンもキーボードアレルギーだけはなく、ブラインドタッチがスイスイと出来るのだから。あ、この年で打鍵が早いというのは、充分驚いていただけます。もっとも、昨今はグンと腕が落ちました。
と、まったく関係ないことにまで話は進んでしまった、どうも懐古趣味が又出たようだ。
いずれにせよ、手に入るようなら、お勧めの一冊である。
主人公砂村朝人は、大学での将来を嘱望されながら、大学紛争時の大学に失望して職を辞し、翻訳事務所を経営している。仕事に対する誠実な態度が、生き方にも現れている。
こうした自立した暮らしぶりが、意外と一匹狼的な本格派の探偵を思い起こさせる。
現在まだ仕事を続けていたら、どんな仕事ぶりだろうなどと想像してしまう。
うーん、仁木悦子って最早過去の人なのかなぁ。フォーラムではそこそこ書き込みも続いていたが。
良い作家です、ご存じない方は一度是非どうぞ!
解説から
謎解きのおもしろさもさることながら、このミステリーが小説としてもよくできているのは、やはりこの素人探偵の魅力的な生き方に負うところが大きいといえよう(ついでに付け加えておくと、淡井貞子という中年女性も、同じく大変魅力的である)。
青じろい季節
昭和五十五年九月十日初版発行
昭和五十七年二月二十日五版発行
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