沢木耕太郎「血の味」
血の味 | ![]() | 沢木耕太郎〔著〕 出版社 新潮社(新潮新書033 ) 発売日 2003.03 価格 ¥ 476 ISBN 4-10-123514-7 bk1で詳しく見る |
中学3年の冬、私は人を殺した。ナイフで胸を一突きしたのだ。そして20年後-。社会に復帰し、静かに暮らしていた私を、封印したその過去の暗闇へと、強引に連れ戻す出来事が起きた…。
15歳の少年の犯罪というと、すぐにいわゆる少年犯罪を思い起こすかもしれぬ。しかし「今」は、事件から20年経っている。あとがきにあるように、1985年に書き始められていたというから、そのこととは視点を異にしている。
中学三年の冬、私は人を殺した。ナイフで胸を一突きしたのだ。という衝撃的な書き出しだが、相手が誰かは終章近くまでわからない。
どこか高橋たか子の「亡命者」を思い起こしながら読んでいたのが、最終章で納得できた。
あの父は、求道者のような禅僧のような不思議な人物だ、謎は最後まで解けない。溶接工の彼が何故溶接が好きになったかというくだりが良い。
ふと、中学からの帰途でいつも見た溶接工を思い出した。
主人公が男を刺して戻ってきた夜、そのまま眠り続けた彼は父が作ってくれたスープをお代わりする。
そのとき、父にはわかっていたのだろうか。私の体のどこかに仕掛けられた起爆装置のタイマーが最後のときを刻んでいるということが。一分一分、一秒一秒、二人でいられるときが失われつつあるということが……
これほどまでに人と関わりを持とうとしない少年がいるとは思えないが、潔く哀しい彼には感情移入できる。
これを読み終えたのが今日だというのも、何かの因縁か。
血の味
平成十五年三月一日発行
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