川端裕人【みんな一緒にバギーに乗って】
川端 裕人〔著〕 出版社 光文社 発行年月 2005.10 税込価格 :\1,575 (本体 : \1,500) ISBN 4-334-92469-7 bk1で詳しく見る |
明日の社会が見えてくる保育園に、新人男性保育士が着任した…。少子化、育児・教育、家庭など、現代日本の問題のいわば源流である保育園で奮闘する保育士・竜太の成長譚。
田村竜太は、新卒の保育士。区立の保育所へ配属される。男性の保育士ということで、母親たちは不安感を抱き、子供たちもなかなか馴染んでくれない。子供が好きだからという理由だけで保育士になった竜太は、同じく新卒の秋月康平に気後れを感じてもいる。
その竜太も、自分になついているなかなか言葉が出なかったタカちゃんが始めて意味のわかる言葉を発する場面に居合わせるという幸せに出会ったりする中で、少しずつ成長していく。
自分はといえば、娘を産休明けに無認可保育所へ預けた。息子たちの時には退職していたが、通院のため保育所へ通わせていた。そして、娘の子供たち二人も、保育所にお世話になっている。下の子が来年就学して保育所とは縁がなくなるが、都合、延べ27年間ほどを、保育所と関わってきた。その間、男性保育士にお目にかかったことはない。
母子家庭の子供にとって、ほぼ24時間女だけの世界で過ごすというのも、考えてみれば少し変かもしれない。それがあってか、下の子はお迎えに来るお父さんたちになついている。男性保育士は父親代わりではないとはいえ、もっと増えて欲しいものだ。
竜太が子供に「たかいたかい」をしている場面で、重なる風景がある。娘の上の子は、徹也に「たかいたかい」をして貰うのが好きだった。「あと一回だけだよ」と言っても「もう一回」とせがむ。「兄ちゃんしんどいから、本当にあと一回だけだよ」と言いながら、請われるままに何回も抱き上げていた。この子にとっても、忘れられないことだという。「兄ちゃん、やさしかった」
ふと思う。徹也が保育士になっていたとしたら、きっと子供に慕われる保育士になっていたのではないかと。
子どもたちは、教師や保育士を選べない。
だれにでも、新人の時代はある。子ども達と接していくことが自分が成長していくワンステップにしか過ぎないとしても、子どもたちにとって、その学年その年は、一生に一度だけだ。
竜太は言う。
「殺すなんて言っちゃだめなんだ」
声の抑揚で、園庭がしんと静まりかえった。
「きみたちは誰も殺したり、殺されたりしちゃいけないんだ」
昨日も、痛ましい事件が起こった。子供たちが安心して伸び伸びと過ごせる学校や保育所、地域であって欲しい。
昨日書いたように、疲れていた身体がホンワリと温かくなってくる本。
著者の「みんな一緒にバギーに乗って」一ヵ月に、トラックバックさせていただきました。
みんな一緒にバギーに乗って
2005年10月25日初版第1刷発行
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