今は もうない
「トンネルの多い道だね」助手席の犀川助教授が言った。
考えてみれば、人生だって断続するトンネルみたいなものだ。必ずどこかで意識は途切れ、ずっと明るいままの思考が連続しているわけではない。それなのに、たった今通ってきたばかりの道にトンネルが存在していたことさえ忘れてしまう。そうして人は、常に明るい綺麗な道路を顧みようとする。いずれも、森博嗣「今はもうない」冒頭部分より
景色はセピア色に霞んでも、記憶が途切れるわけではない。しかし人は、時に意識して思い出しに行かないと、記憶は封印されてしまう。
関連記事:森博嗣「いまはもうない」によせて
あの日と同じように、水芭蕉は花を咲かせていた。
連休初日、無理を言ってとうとう「ひるがの高原」まで連れて行ってもらった。
岐阜で東海北陸道を一旦降りて川沿いの道を行く。途中少し河原に降りる。4年前には長男が緊張して運転していたカーブとトンネルの多い一般道を避け、ぎふ大和ICから再び東海北陸道に上がる。
「ひるがの高原」の分水嶺公園。
この地から左右に分かれた水は、再び会うことなく、方や長良川として伊勢湾へ注ぎ太平洋へ。一方は庄川を下り日本海に至る。
おりしも一葉のモミジ葉が流れ来て、逡巡するようにしばし留まる。やがて右手、庄川へと静かに流れていった。
この分水嶺を見ながら、運命の岐路などと話した一人は、今はもういない。
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コメント
日本海側の庄川(しょうがわ)から2㌔のほどに住んでいます。
荘川(しょうかわ)という川の名が地図に見当たらないので、旧村名(現、高山市)と混同されたのでは、と思います。
ともあれ、更に何か、お近づきになったような気がします。
投稿: sine_wave | 2006.04.30 21:16
sine wave さん、ご指摘ありがとうございました。
変換時に確認せずに、そのままアップしていました。訂正させていただきました。
昨日見たカエデ葉は、無事 sine wave さんの近くまで到達するでしょうか。
こうして 実際にはお目にかかっていない方からのコメントに励まされつつ、また続けて参ります。
これからも、よろしくお願いいたします。
投稿: 涼 | 2006.04.30 22:12