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2006.07.25

横山秀夫【クライマーズ・ハイ】

クライマーズ・ハイ
杯(カップ) 横山秀夫〔著〕
出版  文藝春秋(文春文庫)
発売日 2006.6
定価 \660 (本体 : \629)
ISBN   4-16-765903-4
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男には、乗り越えねばならない山がある-。1985年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちの濃密な一週間を描いた本格長編小説。

新聞を読むとき、他社との比較をする読者は稀だろう。しかし現場(新聞社)は、そうではない。抜いた抜かれたは、記者生命をも支配する。

本書は、この夏21年目を迎える日航墜落事故を、そんな記者の一人の視点で語っていく。

新聞社内の描写には、無駄がない。キャップである悠木が記者が書いたものを半分に削ぎ落としていくように言葉は簡潔で潔い。
仕事場での罵りあいさえも、仕事へのそれぞれの情熱を伺わせてくれる。
一方で、どこにでもあるような出世がらみの確執も伺える。

しかし、現実の事故を扱っているだけに、何気ない会話のやりとりにやや神経を逆なでされる感もある。
仕事とはいえ、感情を持った(新聞)読者が相手なのだ。

21年前。写真誌で見た事故の凄惨さは忘れられない。この写真を載せる必要があるのだろうかと問い、以来殆どこうした写真誌を見なくなった。


解説子の言葉から

物語は、事故から一週間、編集局の嵐の日々を縦糸に、十七年後、かつて販売局にいた「山嵐」安西の遺児とともに谷川岳の鋭鋒、衝立岩に登る悠木のいまが横糸になって進行する。

そう、もう一つの大切な要素が、悠木と燐太郎の山行きだ。

燐太郎の登場場面。登山指導員に不審の目を向けられた悠木の前に、燐太郎が現れる。

「なんだい、安西君の連れかぁ」
指導員は途端に言葉を崩し、一切の心配事が消し飛んだ顔で腰を上げた。

この後の描写で、的確に燐太郎を紹介していく。

物語は、難関衝立岩への登攀に向かうところから始まり、登頂したところで終わる。
最後は綺麗に収めすぎた感がしないでもないが。


幾つか記録しておきたいフレーズがある。また、全面的に書き直したいような気もする。
燐太郎や佐山の描写がうまい。泣かせどころと言っては著者に失礼かもしれないが、やはり、グッと来るものがある。

P. 50

微かな落胆を感じつつも、悠木はそれに勝る安堵を覚えていた。十三年間、この日を待っていたような気がする。心のどこかでずっと恥じていたのだ、「大久保連赤」を心の支えにしてきた自らの記者生活を。


関連記事:ドラマ「クライマース・ハイ」(06.10.01)


クライマーズ・ハイ
2006年6月10日第1刷


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コメント

こんにちは、ぞふぃです。
こちらの作品、ドラマ化されているのを前編だけ観ました。
ちょうどその後だったか同じ局で「氷壁」も放映されていて、
こちらのほうは思っていたものとあまりにも違う内容なので途中で観るのをやめてしまったのですが、
「クライマーズ・ハイ」のほうは最後まで観たかったなあ。

すみません、読書をほとんどしなくなった自分が恥ずかしいです。

投稿: ぞふぃ | 2006.07.26 12:43

昨年暮れに放映していたのですね、知りませんでした。

佐藤浩市さんですか、チョット若いかなぁ。あ、事故当時だからいいのか。
槍登攀時だとすると、若いかなという気もします。

2回では、やはり感動どころは全部収録できなかったようですね。

いい本ですよ、是非お読み下さいな。

投稿: | 2006.07.26 20:42

こんにちは、再びお邪魔します。
今朝、「クライマーズ・ハイ」読み終えました。

よかった・・・
なんというか、伝わるものが本当に多くしかも襞細やかに描かれいているというか・・・
スクープ武勇伝かと思わせておいてそちらの方向へも行かないあたり、「やられた」と思いました。

いい読書のきっかけを与えてくださりありがとうございました。

ただ頭の中ではどうしてもドラマの配役で登場人物が動いてしまうのは如何ともし難かったです。
ドラマを先に見た者の宿命ですね(笑)。

個人的には等々力部長(ドラマでは岸辺一徳)がなぜか印象に残りました。一徳さんが好きだからかもしれませんけれど・・・

投稿: ぞふぃ | 2006.08.05 12:03

ぞふぃさん

ね、よかったでしょ。

ぞふぃさんにドラマのことを教えていただいて、サイトを見てから、佐藤浩市さんの悠木が何だか頭の中でグルグル回るようになりました。

自分で勝手にイメージを作っているのですが、あのセリフはこう言ったかもとか、結構楽しんでいます。

投稿: | 2006.08.05 15:31

涼さん、ぞふぃです。
9/30(土)に「クライマーズ・ハイ」前編が再放送されるようです。
もうご存知かも・・・と思いながらも、

(涼さんに観て頂けたならうれしいな)

と、そう思い書き込ませていただきました。
私もまた観るつもりです。
後編は未見なので楽しみです。

投稿: ぞふぃ | 2006.09.23 16:00

ごめんなさい、上のコメントの訂正です。

書き込ませていただきました
     ↓
書き込ませてもらいました

つまらぬことですみません。習慣とは恐ろしいものですね(苦笑)。

投稿: ぞふぃ | 2006.09.23 16:30

ぞふぃさん、情報をありがとうございました。

絶対見ます。滅多にテレビを見ないから、見るといったら優先的に見せて貰えるのです (^_^;)
時間帯は、年末の時と同じかしら?

投稿: | 2006.09.23 20:07

そうですね、土曜ドラマの枠ですから午後9時からのようです。後編は10/7。録画してでも絶対見るつもりです(笑)。

投稿: ぞふぃ | 2006.09.23 20:53

ぞふぃさん、ありがとうございます。

絶対見ますね!

投稿: | 2006.09.23 23:36

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