伊坂幸太郎【重力ピエロ】
重力ピエロ | |
伊坂幸太郎〔著〕 出版 新潮社(新潮文庫) 発売日 2006.7 定価 \660 (本体 : \629) ISBN 4-10-125023-5 bk1で詳しく見る |
連続放火事件の現場に残された謎のグラフィティアート。無意味な言葉の羅列に見える落書きは一体何を意味するのか? スタイリッシュ・ファミリー小説。
どちらも「spring」と表現される「泉水」と「春」の兄弟。そう、二人はいつも一緒でなければならない。一人になってはいけない。
しかし、春はいつか目の前から消えてしまいそうな儚さがある。
本書では、「ラッシュライフ」や「オーデュボンの祈り」のような、はっきりした悪役は出てこない。
美術展の女性審査員にしても、家庭の事情でやむを得ず人を傷つける言葉を発してしまったのだとしている。そして、この時の母親の態度が実にいい。
春の奇抜な行動が目立つが、泉水もそこそこ変わっていると言えるかもしれない。しかし、何か熱中しているもの(これが何だったか思い出せない)の邪魔をされると暴れるという。(自分だって、ジグソーパズルを途中で誰かが継ぎ足すと、暴れないまでもメチャクチャに壊してやり直すくらいのことはしたいなと思う)
黒澤という探偵は、以前読んだどちらの本で出てきたのだったっけ?
最後の方、父親のセリフにじんとくる。
「おまえは嘘をつく時、目をぱちぱちさせるんだ。子どもの時からそうだった。泉水もそうなんだよ」また、こうも言う。
私たちは言葉を発することができず、ぽかんと口を開けたままの、どちらかといえば阿呆面で、父を眺める。父はさらに、春に向かって、こうつづけた。それは、私たち兄弟を救済する最高の台詞だった。
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」
「俺たちは、最高の家族だ」
本を読んでいらっしゃらない方には全く解らない最後の部分なので、ネタバレ的追記(28日朝)
この本は、兄泉水の独白という形で書かれている。そして(以下、矢印の下から左クリックしてそのままなぞっていただくと文字が現れます)
→
弟春は、父の子どもではない。しかし母親が身ごもったとき、父はごく自然に、生むという選択をした。
そして、全く無理なく、春を自身の子どもとして育ててきた。
母親も、それを受け入れてきた。
(たとえば女性審査員のような)世間が何を言おうと、全く動じないのだ。
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だからこそ、最後のせりふが生きてくるのである。
重力ピエロ
平成18年7月1日発行
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