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2006.08.23

光原百合【時計を忘れて森へいこう】

時計を忘れて森へいこう
時計を忘れて森へいこう 光原百合〔著〕
出版  東京創元社(創元推理文庫)
発売日 2006.6
定価 \780 (本体 : \743)
ISBN  4-488-43202-6

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時計を探して森をさまよう少女・翠の前に現れた穏やかで柔らかい声の主・瞳に温かい光を宿すそのひとは、手触りの粗い「事実」という糸から美しい「真実」を織り上げる名人だった。

 

文庫版の表紙絵からして学園ものかと思いきや、そうではない。高校生の目を通して書かれてはいるのだが。
解説氏が

推理小説とも青春小説とも少し違うこの小説は、今流行の「癒しの文学」に分類されるのかもしれないが、私自身、「癒しの文学」というなんとなくまがいもの臭い文学に好意的というわけではない。

と述べておられるように、
「安易な癒し」を与えてくれるものではない。

 

森と自然相手の青年達を、そういった括りから解き放して、しかも読者を惹きつけてやまない。

 

 

さて、ミステリーとしてはどうだろう? 比較的容易なネタで、気をつければ解ってしまう。そういう意味で、読み始めは高校生向きかなとも思えた(というのは、高校生に失礼であろうか?松本清張の「高校生殺人事件」を想起してしまったということ)。
これは三部構成の第一部。
森で働く深森護青年は、ちょっとした言葉をヒントに物語を紡いで謎を解く。

 

 

結婚前に一人で旅行に出かけて事故死してしまった婚約者のことで悩む青年の話。
亡くなった婚約者がカメラの向こうから見つめていたのは……
その謎を解くきっかけとなったのが、主人公を見つめる護の視線だった第二部。

 

部屋の主は、自分がこの部屋に戻らないなどと夢にも思わなかったはずだ。帰ってきたらくつろいで座り、好きなCDでもかけて、本を読む……当たり前に続くはずだった日常。だが、その日常はここには二度と戻ってこない。

 

 

冬場に行われるキャンプ行事の一つとして、それぞれが書いた童話がその人の過去をもあぶり出すのが第三部。
自分を見つめることは、いやでも残酷な過去を思い出させるのかもしれない。

 

 

こうして改めてみるまでもなく、ここには殺人もなければ残酷なシーンもない。
読者も登場人物と一体となって、静かな森と対話しながら自然の四季を楽しむことが出来る。

 

 

時計を忘れて森へいこう 2006年6月30日初版

 

 

 

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