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2006.10.06

◆篠田真由美【失楽の街】

失楽の街
失楽の街 篠田真由美〔著〕
出版  講談社(講談社ノベルス)
発売日 2002.8
定価 \1,050 (本体 : \1,000)
ISBN   4-06-182376-0
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インターネットの海にひそかに書き込まれた犯行宣言。あでやかに桜咲く2001年4月、東京を爆弾魔が跳梁する。怒りと悲しみに突き動かされ漂泊する犯人を、京介は捉えることができるのか。建築探偵第2部完結!

この話の最初の部分は、「綺羅の柩」と同時期だ。そして今回の京介は、少なからず危険だ。

さて舞台は、昨日書いた「同潤会アパートメント」のうち、名前は変えてあるが(註)小石川・大塚女子・青山の三箇所を中心にして廻っていく。
また別に、下町型として墨田区・江東区のアパート以外の子供たちも安心して遊べる場所としてのコミュニティもあったという会話がある。

(註)同潤会も朋潤会となっている

しかし言うまでもなく主役は人間であって、古き良き時代の住み処を懐かしむか、新しく自分たちで違う形のコミュニティを作っていくかは、それぞれにまかされている。
ただ、人は身勝手なもので、大所高所に立った理想よりも、自分の身近なところでの事件に右往左往する。この辺り、不気味な発言をする京介の、一方では可愛いとも言えるセリフもある。

さて肝心の事件だが、幾つか錯綜してはいるが、(あるいはそうかと思わされる)首謀者(註)についてはいささか強引な感が否めない。いずれにせよ、かなり気の滅入る事件ではあった。
やはり、若い人の考え方でついて行けない部分があるようになったのかもしれない。

(註)ハンドルが「トガシ」で、ここから何となく「勧進帳」を想起したら、本名に近づいてしまった(と思った)のだが、若い読者にはどうだろう?

桜の大樹が失われても、そのひこばえが人々の手元で育ち続けるように、この小さなコミュニティが失われても、かつてあったものの記憶はささやかな種子となって胸に残り生き続けることを、信じよう、いまは。
人はふるさとを無くして地上をさすらう。 だが携えた苗が根を下ろし、新たな春に花をつえるなら、その場所を己が故郷と呼んで、なぜ悪かろう。


故郷を愛しながらも拒否しているかのような朔太郎の詩が、重低奏音のように響いてくる。


本書をもって、建築探偵第二部完了とある。


余談だが、東京の地下鉄がなぜ判りにくいのか判明した。

当日追記:ちょっと矛盾を感じたこと
奈緒が修と出会えるように、イズミが手配したということ
いつの間にか、イズミがトガシと連絡を取っていたこと(ソブエの死後訪ねていったということか)


失楽の街
2004年6月7日第1刷発行


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