伊坂幸太郎【陽気なギャングが地球を回す】
陽気なギャングが地球を回す | |
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伊坂幸太郎〔著〕 出版 祥伝社(祥伝社文庫) 発売日 2006.2 定価 \660 (本体 : \629) ISBN 4-396-33268-8 bk1で詳しく見る |
ゴキゲン4人組の正体は、百発百中で成功する銀行強盗だった。しかし、ちょっとした誤算で売上をトランクに入れたままのクルマを現金輸送車ジャックに奪われた…。不況気分をぶっ飛ばすアクション。
5月に映画化されているらしい。
また、10月25日にはDVDも発売されているという。レンタルも、同時リリース。
奇想天外な展開、洒落た会話。
いつもながら、伊坂幸太郎は、ページを繰るごとに楽しませてくれる。
今回は、四つの章から成っているのだが、その中が更に4人のそれぞれを中心とした節から構成されている。
そしてその冒頭に、辞書の内容をイメージした記述がある。広辞苑を元にしているということだが、そこにちょっとした加筆がある。
例えば、
うち-あわせ【打ち合わせ】①ぴったり合わせること④会社員の労働時間の大部分を占める作業。参加者の数に比例して時間が長くなる。声の大きな人が主導権を握る。有意義なものは稀れ。最終的には開始前の状態に戻ることも多い。
はんせい【反省】②自分が今後も同じ過ちを繰り返すことを再確認する行為。
などと、人を喰ったような記述が並ぶ。
もう一つ、古典的な数学のトリックもはさまれている。
これは、ある計算をしていくと、2=1になるというものだが、解は「ゼロでは割らない」というところにある。ここでひっかかると、不思議な解答になってしまう。
割り算というのは、ギャングの分け前計算に使うものなのだそうだ。従ってゼロで割るということは、盗んだお金を誰も手に入れられないということ。
これは、とあるブログへの解答でもある。
せっかくの戦利品をみすみす現金輸送車ジャックに奪われた四人組は、リベンジをはかることが出来るのか?
本書にも、露骨に嫌な人間も登場する。しかし、著者の優しい目線での物語進行にはホッとする。
伊坂作品は、登場人物がリンクしていてそれを見つけるのも楽しいのだが、本書でもある方面のプロが「オーデュボンの祈り」にも登場していた。
mixiのコミュで「好きな登場人物ランキング」というのがあるが、本書の登場人物、成瀬・響野・雪子なども人気だ。20歳の久遠も、いい味を出していると思うが。
本書の元になった作品(「悪党たちが目にしみる」)は、1996年のサントリーミステリー大賞の最終選考会で、最終候補の三作に残った。ところが最終選考会に於いて、選考委員から徹底的に叩かれた作品だったという。
本書はそうしたことの後遺症など微塵も見せず、気負いなく書かれている。
もっとも著者は、脱稿までにかなりの時間をかけているという。
カラッとした気持ちになりたいとき、伊坂作品はお薦めだ。
31日追記
一見無駄に見える小物(いや、相当大物もある (^_^;)が、最終場面(悪者退治?)で見事に生きてくる。スカッとする。
・嘘を見抜く天才成瀬が見破った警官マニア(の調達した制服)。
・響野が田中から買ったカメラ。
・一定時間外からロックすると、中からは開けられない車。
肝心なことを書いていなかった。
成瀬の離婚した妻と、息子のタダシのこと。
タダシの存在が、この作品を伊坂さんらしくしているもっとも重要なポイントではないかと思う。
「ラッシュライフ」の犬、「オーデュボンの祈り」の桜、「重力ピエロ」の春と共に、好きな登場人物だ。
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「陽気なギャング」の映像
陽気なギャングが地球を回す
平成18年2月20日初版第1刷発行
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