絲山秋子【海の仙人】
海の仙人 | |
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絲山秋子〔著〕 出版 新潮社(新潮文庫) 発売日 2007.1 定価 \380 (本体 : \362) ISBN 4-10-130451-3 bk1で詳しく見る |
背負っていかなきゃならない最低限の荷物-それは孤独。海辺の街にひっそりと暮らす青年とふたりの女と出来そこないの神様・ファンタジーが奏でる切ない愛の物語。第130回芥川賞候補作。
河野勝男は、3億円が宝くじで当たり、会社を辞めて敦賀で海を相手にひとり暮らしをしている。
冒頭しばらく河野とファンタジーの会話は、伊坂さんを思い出させる。ほんわかと進んでいくかに見えたこの本は、中盤思いがけない悲劇を迎える。
ファンタジーのいう運命の女、中村かりんとは、結局結ばれることなくかりんの死で終わる。幼い頃の体験が河野を怖じ気づかせているのだが、著者はこうした男女の関係を描くのが実にうまい。
解説の福田和也氏も触れていらっしゃるし、芥川賞受賞作「沖で待つ」でも感じたことだが、絲山氏の作品での性の扱い方には好感が持てる。
「沖で待つ」の二人の関係とは違って今回は恋人同士ではあるが、それでも慎重に丁寧に描かれている。
そしてもう一人の片桐も、一見奔放そうでいて極めて気配りの効く女性だ。
終盤、落雷で失明しチェロを弾く河野の元へ片桐が来て、物語は暗示的に終わる。
せつないが、すがすがしくなる作品。
海の仙人
平成19年1月1日発行
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