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2007.05.19

笠智衆【小津安二郎先生の思い出】

小津安二郎先生の思い出
小津安二郎先生の思い出 笠 智衆〔著〕
出版 朝日新聞社(朝日文庫)
発売日 2007.5
定価 \525 (本体 : \500)
ISBN 4-02-261532-X


表紙の向こうから、笠さんがあの独特の口調で語りかけてくるような本。

笠さんが「先生」と慕う小津安二郎監督とは、実は一歳しか違わないという。


お寺の次男だった著者が、大学時代に下宿で一緒の友人に誘われて松竹の俳優研究生募集に応募する。誘った友人は落ちて成り行きで受けた著者が受かってしまったのは、「高峰秀子の捨てられない荷物」にある松山善三氏の場合と同じだ。

研究所を卒業して大部屋に所属しても役に恵まれるわけではなかった。しかし縁あって小津監督と出会ってから、その二作目からは殆どの作品に出演してきた。

映画の現場の話、それ以外の場所での交流と、話は当時の俳優にも触れつつ、訥々と語られていく。
松竹映画史の一面を見る思いがする。


笠さんといえば、ヘタで名高い?俳優だった。

あまりのヘタさに取り直し続出でフィルムを何本も使い、小津監督は予算オーバーの詫び状を会社へ入れねばならない。

小津先生にも、たくさん詫び状を書かせたかと思うと心苦しいですが、「世界の小津」に詫び状を書かせたのは僕ぐらいだと考えると、なんだかちょっといい気分です。

こうしたエピソードも、楽しい。


こうして読んでみると、笠さんの作品はよく観たなぁと思う。(昭和)20年代後半から30年代にかけての松竹映画はよく観ている。小津作品も殆ど観たのではなかったか。
30年代後半からは洋画をよく観るようになったような気がする。


とまれ、この本を味のある語り口調で聞いてみたいものである。


この本は、1991年5月に刊行されている。
後書きにはこういう一節がある。

この本の完成直前に、妻の花観が亡くなりました。


そして文庫版の最後には、ご子息徹さんの書かれた「父と母の記憶」という巻末エッセイが掲載されている、
その冒頭

笠智衆は、この本を出した二年後に他界しています。
とある。
奥様の後を追うようにしてなくなられたなぁという印象を持っていた。本書は、

笠智衆が他界したのは平成五年春、窓の外を見て「もうすぐ桜だなあ……」と言っていましたが、とうとうそれを見ることは出来ませんでした。
と、結ばれている。


小津安二郎先生の思い出
2007年5月30日第1刷発行


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