横山秀夫【看守眼】
看守眼JOY NOVELS | |
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わかるんだよ。刑事にはわからなくてもな-。29年間、留置場の看守として警察人生を歩んできたF署の近藤宮男。死体無き殺人事件に元看守が迫る表題作ほか、「人生の瞬間」を緊迫の筆致で描く6編の人間ドラマを収録。
知事公室秘書課に勤務する三人の秘書を中心に、知事を巡る人たちとの攻防も描いた「秘書課の男」は、
「だよな、わからないものな。やっぱ、同じ思いをしなきゃ、わからないものな」が、キーワードである。
冒頭、秘書課長の倉内が知事宛の投書を選別しているところから、物語は始まる。一つの投書が彼の安定した暮らしを奪うかもしれない話へと発展していく 序曲だ。自分の地位を奪われると思って焦る倉内。しかし彼もまた、先輩秘書に同じ思いを味合わせていたのだった。
それに気付いたことで、この苦境を脱することができるか。
「口癖」は、神経を病む夫と家事調停員を勤める妻 ゆき江、二人の娘達の話。
娘の高校時代の不幸を招いたと思っていた同級生が、離婚調停を求めて眼前に現れる。派手な格好をしていたその母親は、今見る影もない。「勝った」と、ゆき江は思うが……
そのゆき江の口癖が、娘の忘れ去りたい過去を暴いてしまう。
しかし、その現実と向き合ったとき、かつての相手に対して
後ろ姿は淡々としていた。勝ちも、負けも、何もなかった。と感じたゆき江は、花屋で見た透き通るような白い河原なでしこを生けようと思う。
他の作品も、ほろ苦い現実と未来への希望を感じさせて共感を呼ぶだろう。
2007年7月25日初版発行
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