トマシーナ |
ポール・ギャリコ〔著〕 山田 蘭〔訳〕 出版 東京創元社(創元推理文庫) 発売日 2004.5 定価 ¥903 (本体 : ¥860) ISBN 4-488-56001-6
|
獣医のマクデューイは、治る見込みのないペットをしばしば安楽死させてしまう。
ある日、愛娘メアリ・ルーが可愛がっていた猫トマシーナが重い病にかかった。ちょうど盲導犬の手術にかかっていたマクデューイは、時間を取られることを畏れてメアリ・ルーの気持ちを慮ることなくトマシーナを安楽死させてしまう。
その場面へ行くまでに、マクデューイの非情さと、本当は医者になりたかったが父親のあとを継いで獣医にならざるを得なかったという彼の夢の挫折とを結びつかせていく。
子どもの頃からの希望が叶わず頑なに、そして無神論者になっていった彼の唯一の友達が牧師のペディであるのも皮肉だが、この二人の友情はよく書けている。
そしてもう一人、街の人たちからは「魔女」と呼ばれることもある赤毛の娘ローリが登場する。彼女は傷ついた動物たちを経験と薬草の力を借りて癒すことが出来る。また彼女は、動物たちの言葉を聞くことが出来る。
さて物語は、トマシーナを殺されたメアリ・ルーが、以来父マクデューイと口を聞かなくなり、あげく重い病気にかかってしまうという展開を見せる。
その間に、自らを猫の女神と称する不思議な猫タリタの語りが挟まって、物語に緊張感を与えていく。
マクデューイが娘メアリ・ルーとネコのトマシーナの仲良しさに嫉妬しているらしいことと、謎の猫タリタがローリとマクデューイが親密になっていくことに嫉妬していく過程の対比が面白かった。
そして、愛の奇跡が、メアリ・ルーを回復させたのか?
実際には奇跡が起こったわけではなく、道理にかなった説明がなされるのだが。
猫が一部物語るという趣向は、この作家ならではかもしれない。かなり重要な部分ではあるが、やや浮いた感じを受けないでもない。
本書と並行して読んでいた同じ著者の「猫語の教科書」から、いくらネコが好きでも「ちょっとね」と思わされたからかもしれない。
トマシーナ
2004年5月21日初版
2006年1月20日6版
最近のコメント