清水義範【イマジン】
イマジン | |
|
1980年にタイム・スリップした翔悟を助けたのは若き日の父・大輔。12月8日の悲劇からジョン・レノンを救い出そうとする二人の願いは叶うのか? そして翔悟は無事現代に戻れるのか? 時間を超える父子の絆の物語。
2003年、翔悟は20歳。受験に失敗し専門学校に通っている。父大輔は一流大学を出てコンピューター会社を興し、成功している。そんな父と相容れず、翔悟は家を出ている。
ある日、ひょんなことでタイムスリップした地で、翔悟は24歳の父大輔を頼ることになり、奇妙な同居生活が始まる。勿論、大輔には翔悟のことが判らない。ビートルズが好きな大輔は会社勤めをグチる、ダメ男だった。
しかし、翔悟に意外だったのは、そんな大輔の優しさだった。
1980年が、ジョンレノンが殺される年だと知った翔悟は、大輔と共にレノンを助けにいこうとするのだが……
ぎくしゃくしていた父と子の関係が、翔悟が時空を超えた体験をしてきたことで改善する。そう持っていこうとしているのだなということは判るが、タイムスリップした翔悟がいやに大人っぽいのが面白い。
この手の、タイムスリップを体験して大人になって行くという話で思い出すのは、宮部みゆきの「蒲生邸事件」だ。その年のSF大賞を取ったこの作品は、ファンの間では賛否両論出ていた。しかし、普通の少年の成長を描いたこの作品は好きだ。
両書に共通するのは、タイムトラベラーは歴史を変えてはいけないということ。
本書に戻れば、最終部分。大輔が帰宅して翔悟を見た時、ほぼ一瞬で若き日を思い出すというのが、ちょっと不自然な気がするが。
現代へ戻ることが判ってから、ジョンと名乗っていた翔悟が大輔にシミジミという言葉。
「優秀な子じゃなくてもさ、その子が自分の子だってことだけで、いちばん大事だと思うのが親なんだと思う」
今の自分には実感を持って考えられない話題だな、と大輔は思った。だが、ジョンの本音がついポロリと出たような気がして、心には残った。
「きみの言うとおりだろうな」
この会話は長く忘れられないかもしれない、と大輔は思った。
翔悟と再会した時、大輔はこの言葉を思い出したことだろう。
学生時代の母親を見たり、後に親友の父母となる人たちと海水浴へ行ったり、翔悟の活躍がほのぼのとした印象を与える楽しい作品だった。
余談
翔悟がしきりに、1980年のファッションをダサイと言う。大輔が必死でつくって会社で高い評価を得たソフトを、「単なる表計算ソフトだ」と心の中で切り捨てる。
その話をつれあいにすると、「1980年なんてそんなに昔じゃないのに」と言う。
「でも、若い人の23年と我々の23年とでは違うのよ。生まれる前の話だもの。
おとーさんだって、20歳の学生時代に戦争中の時代に飛ばされてたら、もっとショックを受けたと思うよ」
イマジン
2004年9月30日第1刷発行
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 森博嗣【作家の収支】(2025.02.17)
- 佐々木譲【遥かな夏に】(2025.02.13)
- コマkoma【軍人婿さんと大根嫁さん 2巻】(2025.02.12)
- 江上先輩と火村准教授(2025.02.11)
- 金原ひとみ【ナチュラルボーンチキン】(2025.02.10)
コメント