西村京太郎【鉄路に咲く物語】
鉄路に咲く物語 | |
西村京太郎〔選〕日本ペンクラブ〔編〕 |
表紙の絵は、以前はどこにでもあった鉄道駅。ホームに立つ後ろ姿は、涼です(笑)。
いえ、冗談ではなく、夏になれば降り立った越美南線(現 長良川鉄道)の某駅そっくりです。(夏は白い服をよく来ていたし)
左側は、吉田川へと続いています。ベンチに腰掛ければ、目の前に 白山が見えます。
さて本書は、11の短編から成る「鉄道小説アンソロジー」。
西村京太郎氏選だが、いわゆる鉄道ミステリーばかりではない。
トップは、芥川龍之介の「蜜柑」。
汽車というものは都会の電車と違って、全てロマンスシートだと思い込んでいた。当然この車輌もそうだとして、著者と小娘の位置関係に悩んだっけ。
疲労と倦怠を抱えている都会に住むインテリが、一人の娘が汽車の窓から投げた蜜柑によって、「不可解な、下等な、退屈な人生」を忘れられるというもの。
冒頭の
とうに電燈のついた客車の中には、珍しく私のほかに一人も乗客はいなかった。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍しく見送りの人影さえ跡を絶って、ただ、檻に入れられた子犬が、一匹、時々悲しそうに、吠え立てていた。と、人生の倦怠を描写した著者は、最終部分で
暮色を帯びた町はずれの踏切りと、小鳥のように声を挙げた三人の子供たちと、そうしてその上に乱舞する鮮な蜜柑の色と――と、今度は明るい色を持ってきている。
いずれも胸に響く短篇ばかりだが、好きだったのは、村田喜代子の「鋼索電車」だ。鋼索電車とは、ケーブルカーのこと。
近くの山にケーブルカーが通るようになり、それは麓に住む姉と弟の暮らしに多少影響を与えていく。
U山は尾根を長くひいた、ケーブルカーの似合う山である。春さき、青むらさき色に霞んだ山腹に、あちこち桜のまだら模様が混じる。その長い斜面にY字形のケーブルカーの線路が光り、静かに昇降するケーブルカーの姿が見えた。こんな景色が、まさに目の前に浮かぶではないか。
なぜ、弟は家族と離れて遠く貰われていかねばならなかったのか?
わたし(姉)と弟は、それ以来会うことがかなわなかったのだ。
鋼索電車は、何を暗示していたのだろう。
消えゆく都電の沿線で写真館を営む一家を描いた、浅田次郎の「青い火花」もよかった。
ほかに、綾辻行人「鉄橋」 北村薫「夏の日々」 黒井千次「子供のいる駅」 志賀直哉「灰色の月」 西村京太郎「殺人はサヨナラ列車の中で」 宮本輝「駅」 山本文緒「ブラック・ティー」。
最後が、H・ヘミングウェイの「汽車の旅」。
鉄路に咲く物語
2005年6月20日初版1刷発行
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