東野 圭吾〔著〕
出版 集英社(集英社文庫)
発売日 1999.2
定価 ¥630 (本体 : ¥600)
ISBN 4-08-747013-
おぞましい笑いは毒よりも強く、不可思議な笑いは人の心に静かに染み込む。「誘拐天国」「エンジェル」「マニュアル警察」など、身の毛もよだつおかしさ、思わず吹き出すおそろしさ、奇妙な味わいの12篇。
昨日の新幹線で、読了。
紹介文通り、奇妙な味わいの短編集。「怪笑小説」と「毒笑小説」の間にある一冊。
巻末の著者と京極夏彦氏との対談が楽しい。
対談でも仰有っていたが、筒井康隆氏の影響があるようだ。
笑いの教科書はそんなにないのですが、筒井康隆さんは、数少ない教科書の一つなんです。よく芸人が「つかみ」っていうじゃないですか。「つかみ」なんかのテクニックはやっぱりすごい。一行目をムダにしないとか。
一番面白かったのが、冒頭の「誘拐天国」。さる財閥の跡取りである孫となかなか遊べないと嘆く福富豊作に、仲間の宝船満太郎と銭函大吉が知恵を授けて誘拐を企てる話。
名前から判るように、三人とも大金持ちだ。従って、その誘拐話にしても、スケールが違う。警察を煙に巻いてきりきり舞いさせ、その間、福富は孫たち(複数であることにご注目を?)と存分に遊べたか?
最後のオチは、まぁそんなもんだろう。学歴社会を風刺しているとは言っても、ノベルズの発行からは12年が経過しており、多少事情は違うかもしれぬ。
幼い頃脳梁を切断した中年男性が、家族の白い視線をものともせずピアノの練習に励む「つぐない」がよかった。右脳、左脳といった言葉も出てくる。(未読だが)「変身」への関連もあるのか?
夫の上司の夫人に、手作りの料理や小物を次々と押し付けられて困っている部下の夫人たちを描いた「手作りマダム」。
上司夫人は、まったく気づかないふりをして、夫人たちの心を読み取っていたのかも知れない。最後の手作りは、ゾッとするものだった。
映像で言えば、画面が暗くなり、真っ青になっている応接間の夫人たちの場面で終わるのだろう。
切り口を変えてくるし、取り上げてあるジャンルも様々なのだが、さすがに幾つか一気に読むと疲れる。
それでも、出だしの一行目はどれも「オッ」と思わせるものがあり、最後に読んだお二人の対談で納得できた(引用部分をご参照ください)。
「秘密」が、この手のお笑いにいく話にしようと思っていらっしゃったというのも、意外ではない。著者の思惑?からどんどん外れて、深刻でしんみりした話になってしまったが。
心温まる話や深刻な話を書いていらっしゃても、こうしたユーモア精神が根底にあるというのは、小説にピリッとした薬味が効いてくる素になっているのではなかろうか。
東野作品索引
毒笑小説
1999年2月25日第1刷
2008年4月29日第24刷
最近のコメント