東野圭吾【黒笑小説】
東野 圭吾〔著〕
出版 集英社(集英社文庫)
発売日 2008.4
定価 ¥580 (本体 : ¥552)
ISBN 978-4-08-746284-5
同情を集めるかわいそうなシンデレラの素顔とは? メル友に会うには写真と実物のギャップがありすぎ! 苦節30年、売れない作家は初めての選考会へ勇んで望むが…。笑いのマエストロが贈る、超ブラックな13の短編を収録。
作家と編集者を描いた、最初の四編「もうひとつの助走」「線香花火」「過去の人」「選考会」が、興味深かった。
作家たちも編集者たちも、互いにリンクしている。
「もうひとつの助走」は、賞の発表を待つ作家と編集者たちのそれぞれの思いを描いて面白い。最後のオチは、予想範囲でちょっと通俗的。
しかしいつも思うのだが、このシステム?は残酷だ。ノミネートされた作家と担当編集者たちが一緒に発表を待つ。入ればいいが、落選した場合の話は何とも言いようがない。どなただったか、発表と同時に編集者や記者たちがドッと退席し、あとには大量の寿司が残ったという話も聞いたことがある。
とある新人賞に選ばれ、親戚中から祝宴の席まで設けて貰って有頂天になるサラリーマンの話「線香花火」。上司と喧嘩をして、会社を辞めてしまったが……。タイトル通りの話である。
新人賞を得てあちこち引き回されている作家でさえ、賞を貰った途端に「過去の人」と見なされるというのも、怖い話ではある。
究極のブラックが、「選考会」。最初の三編を読んでいると、途中でハハーンと見当が付く。何とも残酷な「選考会」ではなかろうか。選考されたのは、ノミネートされた作家ではなく選考者たちだったのだ。
「巨乳妄想症候群」「インポグラ」「みえすぎ」「モテモテ・スプレー」などは、変わった症状を抱えてしまった男たちの、笑えない悲喜劇。
こうしてみると、『ガリレオ』等の話も、一歩間違えれば(いや、視点を変えれば)、こうしたお笑いネタにならないでもなかったのではと、おかしかった。
ほかに、「シンデレラ白夜行」「ストーカー入門」「臨界家族」「笑わない男」「奇跡の一夜」を、収録。
解説が、奥田英朗氏だ。
「キャリアは二十年だが、十四年間は売れなかった」(本人談)という東野圭吾は、当然のごとく人間を見ている。それは周囲がてのひらを返す瞬間だ。『秘密』がベストセラーになるや、編集者たちが揉み手をして「東野詣で」をするようになった。冷たかった人物までが愛想を振り撒くようになった。見たわけではないが、そうに決まっている。
勿論、編集者側からの反論もあろう。いや、誠実な編集者の方が多いだろう。
だが、全作家を代弁しているといっては、過言だろうか。
takoさんも、面白かったと仰有っていました。東野圭吾/黒笑小説に、トラックバックさせていただきます。
黒笑小説
2008年4月25日第1刷
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