天野節子【氷の華】
氷の華 | |
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結婚12年の隆之と恭子は、誰もが羨む夫婦生活を送っていた。ある日、恭子のもとにかかってきた夫の愛人と名乗る女からの電話。そこで告げられた事実が、彼女を殺人へと駆り立てる。罠が罠を呼ぶ、本格ミステリー。
なによりも、著者のデビュー作品で、しかも刊行当時60歳というのに驚く。
最初は自費出版だったという。
それを、周囲の編集者たちが作品に惚れ込み、手直しをして昨年出版されたのだという。
本書もいわゆる犯人は判っており、カバーに書かれている粗筋を知ってから読むと、途中で罠を仕掛けたのが誰かは見当が付く。
しかしその後の持っていき方もうまく、最後まで一種のどんでん返しが待っている(とはいえ、最終部分は当然予測の範囲内だが)。
心理サスペンスというには、何だかちょっと物足りないものを感じる。
かといって、単純な謎解きのようなワクワク感にも乏しい。うーん、何なのだろう?
刑事戸田の描き方は面白かったが、そのいわゆる「勘」も、(話の筋という)あらかじめ決まってしまっているところから逆に導き出されるような不自然さ(戸田の推測=既成の事実)が弱いような気がする。
婚家に置いてきた子どもと暮らすことだけを楽しみにつましく生きてきた関口真弓、孫の喜ぶ顔見たさにパチンコの景品にチョコレートを選ぶ、ひき逃げされた加賀作治郎。
恭子、そして瀬野隆之や「和歌子」の身勝手の犠牲になったこの二人が、ひたすら哀れである。
最終部分の恭子のセリフ
……わたくし、誰にも屈しません。もちろん、警察という権力にも。……有り余る資産を持ち、友人たちに羨まれていても、真に幸せだったのかどうか……
朝日新聞の書評欄は、
本書により恭子と著者、2人のヒロインが誕生した。と、結んでいた。
米倉涼子主演でのドラマでは、舞台は病院であり、ヒロイン恭子は病院の理事長であり ピアニストという設定のようだ。
しかも、ひき逃げの犠牲者は恭子の叔父だ。この方がインパクトが強いのかもしれないが。
ここでも、所轄の若い刑事に替わって、女性刑事が登場しているようだ。
氷の華
平成20年6月30日初版発行
平成20年7月10日2版発行
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