藤沢周平【蝉しぐれ】
藤沢 周平著
税込価格: ¥700 (本体 : ¥667)
出版 : 文芸春秋
ISBN : 4-16-719225-X
発行年月 : 1991.7
利用対象 : 一般
映画評などから想像していたものとは、やはり多少違う。
時代小説ではあるが、少年ものの成長記という捉え方もあろう。
15歳から18歳、ちょうど高校生時代くらいの多感な頃の、不遇な少年の物語。
だがその中でも、剣術や学問に励み、仲のいい友だちとの交流もある。
友人たちの進路と自分の環境を比べていじけることもなく、淡い恋も経験しながら成長していく。
父の無念の死のあと、一人で遺骸を引き取って家へ帰る道すがら。悪童の心ないヤジにも
一歩一歩足を踏みしめるように前にすすみながら、胸の中で父を恥じてはならんとつぶやいた。
そんな不遇な環境にあっても、いやだからこそ、人の情けは身にしみるのだろう
元服の烏帽子親を務めてくれた藤井や剣術の師。そして何より、幼い頃からの友人たち。
幼なじみの ふく への気持ちは、自分では気づかぬまま案外すすんでいたのやも知れぬ。
ふくは、江戸へ行くと決まった日に、文四郎を訪ねてきている。
そして、別れが決定的になったとき、文四郎は初めて自分の気持ちを悟るのだ。
その一方で文四郎は、いまのはげしい物思いが、ふくとの別れが決まったからこそ、禁忌を解かれた形であふれ出て来ていることを承知していた。禁忌を解いたのは文四郎自身だが、ふくとの突然のわかれがおとずれなかったら、ひとにはもちろん、自分自身にさえ本心をさらけ出すようなことは決してしなかったろう。そしてふくの気持ちを、年経て後、文四郎は知ることになる。
さわやかな読後感の残る一冊。人気のあるのもうなずける。
蝉しぐれ
文春ウエブ文庫(ウエブ価格:450円)
2010年6月20日発行
底本:平成3年7月10日(文春文庫)
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