西澤保彦【夢は枯れ野をかけめぐる】
西澤 保彦著
税込価格: ¥720 (本体 : ¥686)
出版 : 中央公論新社
ISBN : 978-4-12-205409-7
発行年月 : 2010.12
利用対象 : 一般
勤務先を早期退職した孤独な中年男・羽村祐太。高校の同級会に出席した彼は、30年ぶりに再会した加藤理都子に「人前では説明しにくいアルバイト」をしないかと頼まれたのだが…。「迷いゴミ」他5篇を収録。
表題作の他、
【迷いゴミ】【戻る黄昏】【その日、最後に見た顔は】【幸福の外側】【卒業】の5編を収録。
紹介文からしてミステリかと思ったのだが、いい意味で裏切られた。謎解き部分があることはあるが、犯罪がらみではない。柴田よしき【ふたたびの虹】のような展開だ。
何より、この主人公が面白い。人物としては、おそらく面白みのない方だろう。だが、こうした まさに悠々自適の暮らし方を出来るというのは、うらやましくもある。
真面目な勤め人だった彼は、人生をひたすら地味に過ごしてきた。そのせいか、随分老成した感を受けるが、(粗食が功を奏してか)他人からは若々しく見えるらしい。
各作品では、実によくもてるのだ。
話の展開としては、それぞれの作品の登場人物の一人が、何気ない謎を安楽椅子探偵よろしく紐解いていく。
【迷いゴミ】は、その「人前では説明しにくいアルバイト」を始める羽目になるのだが、そこへ現れる依頼人の娘がいい味を出している。彼女が、次の「探偵」になる。
【戻る黄昏】は、前の作品の続き。隣家のちょっとした騒動を取り上げて、しかし最後が切ない。まさに「人生の黄昏」の話しなのだ。
【その日、最後に見た顔は】は、文体になじめなかった。
それに、「女が化粧をしないのは、その人の前でだけ完璧な化粧で現れたいから」はまだいいとして、少しときめいた人が出来たからと言って、翌日から即化粧なしで会合に行くだろうか。
【幸福の外側】では、「本当のしあわせは何か」を考えさせてくれる。
一つ前の作品で亡くなった父の葬儀に集った三人の兄弟の、それぞれの愛と憎しみについての話しだ。
家族だから、よかれと思ってしたことでも、齟齬が出ることはある。素直さの裏返しには、反抗がある。
最初の依頼人の娘である詩織を描いた【卒業】のあと、最後の
【夢は枯れ野をかけめぐる】になる。
毎日一編ずつ読んで、都度ここへ書いてきた。従って、ラストを知らずに書き続けていたのだが、鮮やかな終わり方だ。夢は枯れ野をかけめぐる
【夢は枯れ野をかけめぐる】
言うまでもない。旅先の大阪で終焉を迎えようとしている芭蕉が詠んだ、生前最後の句だ。
夢は枯れ野をかけめぐる
2010/12/18 出版
2011/02/10 Reader™ Store発売
345ページ
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コメント
アイデア勝負といった面白さのある作家ですね。
「実況中死」しか読んだことがないのですが、なかなか面白く読んだ記憶があります。
投稿: ムムリク | 2011.02.17 10:08
ムムリクさん
初めての作家でしたが、楽しめました。
最後は、ちょっと唐突な感がありましたが。
投稿: 涼 | 2011.02.17 16:30