貫井徳郎【微笑む人】
貫井 徳郎 著
税込価格: 1,575円
出版 : 実業之日本社
ISBN : 978-4-408-53607-1
発行年月 : 2012/08/18
利用対象 : 一般
エリート銀行員が、意外な理由で妻子を殺害した。世間を騒がせたこの事件に興味を持った小説家の「私」は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者に取材を始めるが…。【「TRC MARC」の商品解説】より
何とも、怖い話である。
まず「プロローグ」で妻子殺害事件に触れる。帯にあるように、
事件はのだ。
すべてのはじまりに
すぎなかった
妻子を殺したのは、本を置くスペースがなくなったから。
第1章「逮捕」では、この事件の背景を、このノンフィクションを書こうとしている 小説家の「私」が取材する。
同僚や近所の人誰もが仁藤(犯人)の穏やかさ・礼儀正しさを褒め、犯人ではないのではという人もいる。
そんな中、元同僚(4年後輩)で 仁藤への伝言を忘れたことのある田坂は、仁藤の違う一面を語る。
ミスを謝罪した田坂に、仁藤は小声で『死ねよ』と言ったのだ。笑顔で。
第2章「疑惑」では、事件と近い場所で発見された白骨死体が、仁藤の元同僚だったことが判る。しかし遺留品等はなく、事故・自死・事件のどれかも特定できない状態になる。
「私」は元上司や同僚への取材をしていく。
上司が白骨死体の梶原を「かわいい奴」と評したのに対し、同僚たちはあれほどいやな奴はいなかったと、口をそろえて言う。
仁藤が梶原を殺すことはあり得ないと、彼らは言う。
この章の最後には、梶原の母親が登場する。当然だが、母が見た梶原は、他のものたちとは違っていた。
第3章「罠」は、学生時代の話。
学友の死に疑問を抱いた警察官が、仁藤に貶められたという。
頭のいい仁藤の企みそうなことだと。勿論、証拠はない。
第4章「犬」では、子ども時代の話にさかのぼる。
仁藤は犬が苦手だった。隣家の犬がいなくなるようにと、その家の主を殺したのではと、「私」は思う。
借家だから主がいなくなれば、家を出なければならない。当然、犬もいなくなる。
第3章・第4章とも、被害者はダンプカーによる事故だった。「手口」も、似ている。
そして迎えた第5章「真実」だったが。
ここで登場した、仁藤の小学時代の同級生だったという「ショウコ」に、「私」は翻弄される。
「真実」が見えるどころか、一切は謎に包まれてしまったのだった。
唐突に、芥川の【藪の中】を思い浮かべる。
関連性はないが、不可思議な物語だった。
そして何とも言えないフラストレーションが残ったのだった。
本書の最後は、
ショウコが浮かべる笑みは、何を考えているのかわからない仁藤の薄い笑みにそっくりだった。その事実に気づいて、私は小さく震えた。
微笑む人
初版第1刷 2012年8月25日
初版第3刷 2012年9月10日
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 仁木悦子【聖い夜の中で】(2025.03.27)
- 【本の雑誌 3月号】(2025.03.25)
- 江口恵子【普段使いの器は5つでじゅうぶん。】(2025.03.21)
- 堂場瞬一【英雄の悲鳴 ラストライン7】(2025.03.19)
- 篠田真由美【センティメンタル・ブルー】(2025.03.17)
コメント