連城三紀彦【夕萩心中】
連城 三紀彦 著
税込価格:525円
出版 : 光文社
ISBN : 978-4-334-74267-6
発行年月 :2013/03/15
利用対象 : 一般
時は明治末期、政府重鎮の妻・但馬夕とその家の書生・御萩慎之介との情死事件は起きた。現世では成就できない愛を来世に託した二人の行為を、世人は「夕萩心中」ともて囃したが、その裏には驚くべき真実が隠されていた……。
表題作を始めとした「花葬」シリーズの
【花緋文字】
【夕萩心中】
【菊の塵】
三編と、分量の関係からか、
【陽だまり課事件簿】というのが付いている。
【花緋文字】は、帝大学生のモノローグである。が、実は学生時代が現時点ではなくて、20年後の回想になるのだが。
父母に相次いで先だたれた語り手と、その血のつながりのない妹三津。三津とは母の死後引き離されていたのを、偶然花街で再会する。三津は半玉だった。
語り手「私」と学友水沢との関係。三津と水沢とが次第に親密になっていく課程。更には、水沢の婚約者、恩師の令嬢との関係と、三つ巴以上の複雑な人間関係が、次第に悲劇を呼ぶ。三津は(おそらく)水沢の子を宿す。
最後は「私」が恩師の用事で岡山へ行っていた間に、三津は自死する。
水沢もまた、論文がうまくいかずに自死するということになるのだが、これは「私」の復讐、すなわち殺人だった。
しかし、ここからが連城ものの真骨頂なのだ。
やはり、だまされた。
全く関係ないのだが、清張の【潜在光景】を思い出してしまった。
【夕萩心中】
いやー、参りました。
「紹介文」にある、心中の裏にある驚くべき真実」とは……。
これも、「私」という語り手が、幼い頃の体験を、長じて真実を知っていくという設定になっている。
その体験とは、夕萩心中に赴く二人と、道に迷った八歳の「私」とが出会ったことだった。
前半は、初心な書生が次第に主人の薄幸の妻に惹かれていく様子が、克明に描かれていく。
いかにも純真な書生だが……。
二重三重に張り巡らされた罠に陥ったような、驚きの結末。
形こそ違え時代に逆流した二人の父子を結ぶ血は、一個の茶碗に貼りつきながら、骨董屋の片隅で、この国の一隅で、時代の流れの底で、誰も聞かぬ怒号を叫び続けるだろう。
ここでは、「萩」という言葉もまた、二重三重の意味で重要である。
書生の名前 御萩慎之介・白い夕萩・長州の「萩の乱」
うーん、フィクションではあるが、歴史物とも読める。
続く【菊の塵】は、(観ていないが)「八重の桜」とも共通するところがあるような話。
この三編の「花葬シリーズ」の後ろについている【陽だまり課事件簿】は、初めの方だけ読んだが、上記の三編のあとではどうにも中身に入ることが出来ず、途中で読むのを断念した。
Kindle版で読んだのだが、紙本は絶版のようだ。
惜しいなぁ!
図書館で借りた本は、1985年発行の講談社版と、1988年一刷り、89年二刷りの講談社文庫だった。
表紙はいずれも、奥様風の女性と書生が描かれている。
Kindle版の表紙の元になった本は、光文社発行の文庫だったのだろう。
夕萩心中
Kindle価格・honto価格とも525円
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