つれづれ、北野坂探偵舎 心理描写が足りてない
河野 裕 著
税込価格: 580円
出版 :角川書店
ISBN :978-4-04-101004-4
発行年月 :2013/09/20
利用対象 : 一般
神戸北野坂のカフェ「徒然珈琲」には、物語を創るように議論しながら事件を推理する元編集者と作家の2人の探偵がいる。そんな彼らに依頼が舞い込み…。【「TRC MARC」の商品解説】より
「北野坂」に惹かれて購入したのだが、最初はなかなか取っつきにくかった。
探偵は、二人いる。
作家の雨坂とその元編集者の佐々波。佐々波は、本書のタイトルの由来であろう「徒然珈琲」というカフェのオーナーでもあり、お菓子作りを趣味としている。何故か、そのお菓子の評判はよくなく、全然上達しないのだが。
そんな二人に、高校生の木暮井ユキが「死んだ親友の幽霊が探している本」を見つけて欲しいと依頼してくる。
決して向き合おうとせず、背中越しに意見を交わす、雨坂と佐々波。
雨坂の紡ぐ物語という形の推理を、佐々波が否定しつつ「推敲」し、少しずつ完成させていく。
向き合って語るときは、意見が対立している時という、変わった設定。
場所が、駅前からゆるやかに続く神戸北野坂というのもオシャレだ。
「徒然珈琲」にはまた、パスティーシュと呼ばれるウエイトレスがいて、何故かやけに威張っている。
プロローグとエピローグを挟んで4つの依頼すなわち事件があるのだが、すべて学校の図書室がらみだ。
中で、サブタイトルにもなっている【心理描写が足りてない】がよかった。
ユキが封印したい過去。絵を描くのが好きなユキは、8年前の夏休みに指導していた教師から手痛い仕打ちを受ける。
その謎が、8年経ってようやく解ける。
冒頭の【本を探す幽霊の誤謬】から、
【迷子のドリル】、上に挙げた
【心理描写が足りてない】
【リリカルファイア】と短編だが、ずっと続いた物語でもある。
ユキ自身、死んだ親友の謎が解けて助かったのだが、哀しい結末でもあった。
幽霊は、未練が解決すると消えてしまわなければならないのだ。
この雨坂という作家も、何か謎がありそうだ。
また、威張っているだけかと思われたパスティーシュも、不思議な魅力を持っている。
ユキに対して
「最初は、私と雑談なんてしたくないと思っていたでしょう」(中略)
「落ち込んでいる顔をしている人は、大抵そうですよ。でもなんとなく話していると、少しは気が楽になるものでしょう。
と言い、さらに
「疲れている時は必要なものがわからなくなっているものですよ。したくないことや欲しくないものが、本当は意外と重要だったりします」
と、続ける。
そして、糖分は頭にも精神にも良いと勧める。
ちょっと魅力的な人だ。
つれづれ、北野坂探偵舎 心理描写が足りてない
平成25年9月25日初版発行
Kindle価格:459円
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