萩を揺らす雨
吉永 南央 著
税込価格:637円
出版:文藝春秋
ISBN:978-4-16-781301-7
発行年月:2011.4
利用対象:一般
観音さまが見下ろす街で、コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む気丈なおばあさん、杉浦草。人々を温かく見守り続ける彼女は、無料のコーヒーを目当てに訪れる常連たちとの会話がきっかけで、街で起きた小さな事件の存在に気づく。
二作目の【クワバラ、クワバラ】は、小学校で一時同級だった幼なじみの話。何故か彼女に意地悪をされていた草だったが、それには……という設定だ。
話が、草が店を出す頃になったり現在に戻ったり、また小学校時代にまで遡ったりする。
最初の【紅雲町のお草】にも登場している由紀乃は、ここでも草の回想に同じようにつきあえる。彼女は脳梗塞の後遺症で左手が不自由だが、草が行く時はいつも自分でもてなす。
草もさりげなく気遣いながら、一方で話を聞いて貰える相手として頼りにしている節もある。
三つ目の【0と1の間】は、草がパソコンを習うことになったアルバイト学生の話。「0と1」とは、パソコンの世界の話だが、それで割り切れないのが、人間関係。
【悪い男】も、見た目だけでは判断できない、人間の内面の話を織り込んでいる。
ここでだったか、しだいに身体が不自由になっていく由紀乃のことが出てくるのは。草が訪ねていって、臭いのするおにぎりが居室のゴミ箱に放置してあるのに気づく。潔癖症の由紀乃は、生ゴミは部屋には捨てず、必ず台所へ持って行っていた。
それを気にしなくなったいうことで、身体だけでなく認知症気味でもあることを示唆している。
それに対する、草の対応がいい。彼女は、知らんぷりをしていたのだ。それはヘルパーの仕事だと。しかし、自分が気づくことによって、由紀乃に決まり悪い思いをさせまいという気遣いでもあったのだ。
色々親切に口も手もはさむ世話焼き婆さんは多いが、それを堪えて相手を思いやることは、なかなか出来ない。
【萩を揺らす雨】
物語が順次進むにつれて、由紀乃の体調がどんどん悪くなっていき、この話の頃には彼女は息子に引き取られて宮崎へ行ってしまった。
草の、人には絶対言わなかったほのかな恋心も綴られて、やや切ない。
しかし、若い不良を相手に啖呵を切れるなど、草さんは最後まで元気だ。
今回ドラマ化されるのは、一番目の【紅雲町のお草】と【悪い男】のようだ。
草の幼なじみ、やはり独り暮らしの を演じているのが岩本多代だ。まだ現役だったのか。
橋爪功が、これはドラマオリジナルかな?当てはまるのはいるのだが、少し設定をかえてあるのかな?
こういう短編は一つ読み出すとそれが終わるまで読んでしまうし、それが次々と続いてしまうので、要注意。
幸い今回は、昨日の外出時に読めたのでよかった。ちょうどよい分量だ。
続編・続々篇もあるようだが、あまり一度に読むと食傷気味になるから時間をおいた方がいいかもしれない。
萩を揺らす雨
Kindle価格:475円
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