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2015.05.13

綾瀬まる【桜の下で待っている】

桜の下で待っている

桜の下で待っている高木 智編著
税込価格:1,365円
出版:PHP研究所
ISBN:978-4-569-70039-7
発行年月:2008.9
利用対象:一般

面倒だけれど愛おしい「ふるさと」。新幹線で北へ向かう5人。その先に待つものは―凛とした光を放つ感動傑作。【「BOOK」データベースの商品解説】

実家が店じまいをしたらしい恋人のことが気になりながら、宇都宮の祖母を訪ねた第一話【キッコウバラのワンピース】。
若かった頃の祖母の話が、なかなか素敵だ。その祖母は、今も通院にはキッコウバラのワンピース着ていく。
その祖母の家を手伝う智也も、気持ちのいい若者だ。


婚約者の実家を訪ねて福島へ向かう第二話【からたち香る】。
放射能のことを必死に勉強して行ったのだが、実家の人たちの日常を思い知らされる。
しかし律子が本当に気に掛けているのは、好きになって結婚を決めたのに、それを認めて貰わねばならないということなのだ。

いくら「両性の合意」とはいっても、やはり結婚という「儀式」には、色々なしがらみがくっついてくる。
婚約者由樹人の兄嫁と母の関係などさりげなくからませながら、律子の屈託を描く。
由樹人の友人の暮らしとも対比させて,結局は自分たちで決めることだと気づく。

やはり結婚は、特に女にとっては一生の大事だ。


亡くなった母の七回忌に出席するため仙台へ行く第三話は、【菜の花の家】。
兄・姉・自分の三人兄弟だったが、それぞれ性格が違う。
母親の支配に反発していた姉淑子も、自分も次第にそうなっていくのではと思い始めている。
ここでは、兄嫁の可奈子が一服の清涼剤だ。姑との暮らしが大変だったことを、武文は淑子から初めて聞く。

姑が亡くなってから、家を自分流に変えていった可奈子は、なかなかしたたかとも言える。
その象徴が、「菜の花」なのだろう。
淑子と仲よさそうなのが、救いである。


舞台は次第に、遠くへ行く。
下級生が事故で亡くなったことから気持ちが離れない小学生、知里が両親と向かったのは、第四話【ハクモクレンの砕けるとき】の新花巻。
「生と死」に初めて向き合う小学生を、祖父母の家では不思議な女の子「むうちゃん」が迎えてくれる。むうちゃんと遊んでいるうちに、知里は現世とあの世を行き来するような、不思議な体験をする。

それは、宮沢賢治の世界でもあった。
次の日に訪れた「童話村」で、知里は賢治に出会う。

祖母が夜中に見つめていた、「ハクモクレンが砕けるとき」も、まさに生と死が向き合う時だ。

この「童話村」へは、行ってみたいな。


第四話の知里が新幹線で出会った売り子のお姉さんが主人公なのが、第五話【桜の下で待っている】。
父母のけんかを見て育ったさくらと弟柊二は、仲がいい。
お互い東京で暮らしながら、時には訪ね合って近況を語り合う。

さくらは、以前の会社が倒産してから、「遠くへ行きたい」と、新幹線の売り子になった。
独り暮らしのマンションからは、東京タワーが見える。
夜の東京タワーは、そんなに綺麗なのか。一度タワーが見えるホテルに泊まってみたい。


【暗い夜、星を数えて】を書いた著者の作品というのに惹かれて読んだもの。


桜の下で待っている
2015年3月20日 初版第1刷発行


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