夏樹静子【逃亡者】Audible
夏樹 静子 著
ナレーション:福士秀樹
Audible会員のみ
出版:ことのは出版
ISBN:978-4-569-70039-7
発行年月:2008.9
利用対象:一般
意表を突く展開と、謎解きだけに終わらない繊細な心情表現
大井川鐵道のSL川根路号が登場。
これは、乗ってみたい路線である。
冒頭、二人の刑事がこの列車に揺られている。刑事の一人杉江の戦争中の疎開先へ向かっているのだ。
殺人事件の重要参考人柴崎が、刑事の疎開中での同級生であった。都会っ子のスマートさを持った彼は、何故殺人まで犯してしまったのか。
伊東の旅館の息子だったので、両親の死後あとを嗣いだものの、時代の波に呑まれてその後の人生はうまくいかず、不況のあおりを受けていた。
列車に揺られながら、柴崎宅を訪問した様子を思い出す杉江。杉江は昭和9年生まれで本書では43歳とのことだから、この話は昭和52年のことである。
回想に浸っている内に、列車は乗換駅に着く。
大井川鐵道の家山駅で各停に乗り換え、笹間渡に行く。
上下線が交差する駅で、懐かしいタブレットの受け渡し。忘れ物も待ってくれる。
そしてこれが、伏線になっている。
家山からタクシーに乗って目的地へ向かう途中の、周りの景色も懐かしい。
(これは、ここを見たのではなく、自分が郡上へ行くときの感懐と似ているという意味だ。)
笹間渡での聞き込みで、更に新しい事実が浮かび上がる。
柴崎の、家族には見せなかった意外な一面。
お寺・学校
自分の目に浮かぶのは、子どもの頃見た郡上の風景だが。
その昔 小学校のまさ屋根に 我が投げし鞠 いかにかなりけん 啄木
その柴崎と待ち合わせていただろう女性あき子が、列車に乗る。
途中家山駅では、やはりタブレット交換があり、後からでる列車だ。
ちょっとしたハプニングがあり、定刻より8分遅れる。
その為に乗換列車に間に合わず、指定された列車に間に合わない。本線はローカル列車を待ってくれない。
必死で駆けていくあき子。
それは仕組まれた(つまり彼女を救った)ものだったのか?
線路に落とし物があれば、それを放置してまで列車は出ないだろう。
その人情に対しての、
賭けというより、彼は信じていたのかもしれない。 あの鉄道に乗る人びと、職員も土地の人たちも、行きずりの旅行者さえも、子どもの大事なカメラを無残に壊してまで発車を急ぎをしないということを。(中略) 豊かな川の流れと、やさしい山々の佇まいが、人びとをそんなムードに溶け込ませてしまうのであろう。携帯電話など無かった頃の、遠い昔のはなし。
著者は、こうしたちょっとした心理の機微を描くのがうまかったなぁ。
短編の醍醐味だ。
Audibleについて
柴崎と聞こえたが実際は島崎かもしれないし、あき子は漢字の可能性もある。
聞くだけの読書では、こうした情報がない。
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