海老沢泰久【帰郷】
海老沢 泰久 著
税込価格: 472円
出版 : 文藝春秋
ISBN : 978-4-16-741409-2
発行年月 :2011/03/01
利用対象 : 一般
喜びのあとに訪れる悲しさ、“成熟と喪失”を描いた第111回直木賞受賞作ほか、傑作短篇が全6篇。
表題作【帰郷】
エンジンが大好きな組立工太田誠は、F1チームのエンジニアに選ばれ、出向してサーキットを転戦する。やがてその期間が終わって帰郷した彼は、味気ない日常に退屈してしまう。
周りは彼の話を聞きたがったが、それを話す度に、太田は自分の経験が少しずつ失われていくように感じるのだった。単純な話では飽き足らない聞き手に、ウソを交えて話すようになったとき、彼は自分が汚されているように思ってしまう。
晴れの舞台に立ったあとの、日常へ立ち返る難しさがわかる。
こうした短期間の経験だけでなく、人生の栄光とその終わりを、特に男性は感じやすいのかもしれない。
ハレのときにはケのことを、ケの日常ではいつハレがあっても動じないように。
というのは、簡単なことではない。
【静かな生活】
高名な画家だった義父が残した遺産で、夫や子どもたちと何不自由ない暮らしを送っている良妻賢母の綾城町子。
その暮らしに飽き足らず、数日間のアバンチュールを体験する。
北鎌倉へ戻った彼女は、何食わぬ顔をして元の「静かな生活」を享受するのか?
子どもたちが巣立つ頃、また息抜きをしたくなるのだろうか?
【夏の終りの風】
舞台は、とある球団の二軍。
葛原亮子、小さなバーを経営しながら、野球の応援をするのが好きである。
彼女が目をかけた選手は、必ず1軍に上がることが出来るという伝説(?)がある。
二軍の監督になった山口滋もその一人で、他の選手同様、1軍に上がってからは彼女のところへ顔も出さなかった。
社会人野球から来た高橋望は、なかなか認めて貰えず腐っていた。
しかし彼も、亮子と出会うことでチャンスをつかむ。
こんな話が本当にあったら、面白いだろうな。
【鳥は飛ぶ】
サッカー選手だった佐々木は怪我が原因で引退する。
その彼を取材するために、手塚は彼と共に箱根へ来ている。
芦ノ湖を見下ろすホテル滞在なんて、いいな。
そこへ女優の小沢あい子が登場し、佐々木との仕事が遅れることになる。
それだけの話、ではないが、つまらなかった。
【イヴニング・ライズ】
これまでいつも二人で釣りに行っていた大岡は、友人が結婚したために一人で来ている。
釣果はあまりなく、下流へ行くと、夫婦で来ている釣り人に出会う。
その日の夕食は、彼らと共にする。
その夫の方が仕事で東京へ戻るので、その間夫人を自分のテントで過ごさす。
その後、上流へ行こうとして滑り落ち、意識を失っているうちに「イヴニング・ライズ」という現象に出会う。
これはもう、現実ではない出来事なのだろう。
本編はここで終わっているので、それは想像でしかないが。
結婚した友人の妻が東京式のすき焼きでもてなそうとするのに、その友人は関西式でないと食べないはずだなどと口出しをして、その家へはもう行けなくなるというのが、何となくおかしかった。
結婚すると、いつの間にか妻の味に合わすことが多くなるだろうが、大岡はそれが許せなかったのだ。
イブニング・ライズというのは、「日没時におきるライズ。初夏に多く、同じ時間帯に水生昆虫の羽化が夕方発生しライズが起こる。」ということらしい。
【虚果】
登場人物全員に魅力がなかった。
正直、【帰郷】と【夏の終りの風】以外は、あまり面白くなかった。
帰郷
Kindle価格:469円
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 吉田恵里香【恋せぬふたり】(2025.03.28)
- 仁木悦子【聖い夜の中で】(2025.03.27)
- 【本の雑誌 3月号】(2025.03.25)
- 江口恵子【普段使いの器は5つでじゅうぶん。】(2025.03.21)
- 堂場瞬一【英雄の悲鳴 ラストライン7】(2025.03.19)
コメント