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2018.02.25

田中啓文【辛い飴】

辛い飴永見緋太郎の事件簿

辛い飴田中 啓文 著
税込価格: 994円
出版 : 東京創元社
ISBN : 978-4-488-47502-4
発行年月 : 2010.11
利用対象 : 一般

天才的テナーサックス奏者・永見緋太郎は、相変わらず音楽一筋の日々を過ごしている。しかし、ひとたび謎に遭遇すると…。【「BOOK」データベースの商品解説】より

永見緋太郎の事件簿シリーズの二作目ということで、第一作目は読んでいない。
全編ジャズの演奏とその様子を詳細に語っている。
ジャズはよく判らないのでついていけない部分も多いが、それでも雰囲気は楽しめる。

音楽とミステリの邂逅という、ジャズファンにとっては至高の幸せに浸れる一冊と言えるだろうか。

本書はジャズバンドを率いる唐島英治が進行役を務める。

第一話【苦い水】は、天才的なトロンボーン奏者安来の話。
なぜ酒におぼれて才能を枯渇させてしまっているのか。

最後に永見がその謎を解くというもの。
安来の周りの人たちの人情話とも言えるか。


第二話【酸っぱい酒】は、ブルースを歌う女性の話。
昔聞いた天才的な歌手を尋ねて、唐島のバンドにくっついて名古屋まで行く。
彼女はわけありで、当時の記憶を訪ねたいらしい。

「伝説」というのは、作られていくもののようだ。


第三話【甘い土】は、民族音楽がテーマ。
古代から受け継がれた音楽を演奏する祭りと、その純朴さに目を付けたさぎ師と。


表題作でもある第四話【辛い飴】は、よかった。

唐島が1度聞いただけで心酔してしまった、アメリカのキャンディのバンド。
彼らは40年も、同じメンバーでやっていたのだった。


第五話【塩っぱい球】

球団から頼まれて、「兄者」と呼ばれる選手のテーマソング「アメイジング・グレイス」を吹くことになった唐島。
「兄者」は名前を金本と言い、球団名は「坂上ライガース」って、もしや著者は虎ファン??

その内、「黄泉売スネオズ」「横浜バニラス」「中日ドラボンズ」などという球団名も飛び出してきて、これはこれは……。

話は難病の子へのエールがあったり、野球賭博まで登場。

野球は初めてだという永見が、観戦していただけで明かした推理的中。という趣向。

あとで調べたら、著者は大阪出身で神戸大学を出ておられた。
最後の著者紹介で、ちゃんと説明があった。


第六話の【渋い夢】は、地方の大金持ちが道楽で作ったライブハウスでの話。
そこでは何故か楽器が消える事件が起きており、唐島たちが行ったときには、高額なピアノが消えた。しかも、搬入するときには、大きすぎて壁を壊して入れたというものだ。

これは懲らしめという意図があったようだが、世の中何でも金で片がつくというものではないというお話。


第七話【淡泊な毒】は、唐島が初めてレコーディングした頃の話も出てくる。
どうしようもなく我が儘なプロジューサーの旧悪が、現代に戻ったときに暴露される。


本書が面白いのは、ワトソン役の唐島がホームズである永見の保護者的存在であること。
唐島はバンドリーダーであり、そこそこキャリアもある。
一方の永見は天才的なサックス吹きだが、どこかとぼけているというか、天然というか。


最後に特別編【さっちゃんのアルト】が来る。
唐島が施設で育ったとは、どこかに書いてあったか?シリーズ1で明かされていることかもしれないが。


各話の最後に、田中啓文の「大きなお世話」的 というのがつく。
古いレコードのジャケットの写真が掲載されていて、どうやら著者の秘蔵品のようである。


本書は「味」を各短篇のタイトルに持ってきているが、第一シリーズでは「色」を取り上げていたとか。
ちょっと経ってから、読んでみようかな。


著者の作品は【道頓堀の大ダコ】(14.08.04)しか読んでないが、どうも本書の方が本命のような気がする。


辛い飴
Kindle版価格:850円


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