笹沢佐保【夜の目撃者】
笹沢 佐保 著
税込価格: 432円
出版 : 光文社
ISBN : 978-4-334-71637-0
発行年月 : 2010/07/01
利用対象 : 一般
現代の不安や恐怖、残酷さを抒情豊かな文体で捉えた、珠玉のミステリー傑作集。
収録作は
【優雅な告発】
【善の賭け】
【わたしの名は女優】
【思い出の女】
【夕景の告白】
【夜の目撃者】
【空蝉の身に】
【インコが逝く】
の八編。
冒頭の【優雅な告発】は、歌枕に題材をとり、犯人を告発(?)しているというもの。
弁護士は昔友人と争った女性から、その夫殺しの容疑をはらしてほしいと懇願され、普段の案件とは違った刑事事件ものに取り組む。
見事解決するのだが、それが終わると、また日常に戻るのだった。
いきなり歌枕から入った短編集。
あとのものも優雅(?)な題材があり、ほぼみんな面白かった。
【私の名は女優】
水島加奈子と雪美千代という女優がいた。
ある日加奈子が殺され、美千代に嫌疑がかかる。
所属プロダクションのマネージャー、週刊誌の記者、加奈子の母、美千代の父、テレビカメラマン、テレビ映画の監督と、それぞれが二人の関係を語っていく。
(現場についての言及ではないが)芥川の【藪の中】を想起させる。
中でカメラマンの、『美千代が綺麗になった』という言葉が引っかかるが。
ところが、美千代の近所の煙草屋の留守番老婆の話の辺りから、様子が少し変わってくる。
清純派美千代の本性は?
商事会社の社員、花田純の存在は、煙草屋の老婆の話に出てきた。
そして道代の供述書に至って、真相が明らかになる。
終わってみると、「なーんだ」という感じかな。
携帯電話がない時代ならではの話。
表題作【夜の目撃者】も良かった。
和田マチ子という化粧品会社の調査員が殺される。
その日死体が遺棄されていた道路では事故があり、メリケン粉が散乱していた。
ところが、マチ子の靴底は綺麗だった。死体はよそから運ばれたのか?
綺麗に化粧を施した死体を見て真相に近づいた宇野木部長刑事は、口数が少なく、「右門の旦那」と呼ばれている。そのあだ名の由来が【右門捕物帖】の「むっつり右門」から来ているだろうと知っている人は、どれだけいるだろう?
【善の賭け】は、タイトル通り「賭け」の話。ちょっと趣向の変わった、面白い話だった。
してやったつもりが、やられたというところか。
もしかしたら、弟は先をちゃんと読んでいたのではないか?
源氏物語に題を採った【空蝉の身に】は、甘美で残酷な話だった。
何事も、暴きすぎるのはよくない。
笹沢佐保といえば【木枯らし紋次郎】だが、こんな洒落た現代ミステリも書いているんだ。
夜の目撃者
Kindle版価格:unlimited
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