我が家のヒミツ
奥田 英朗 著
税込価格: 605円
出版 : 集英社
ISBN : 978-4-08-745749-0
発行年月 : 2018/06/21
利用対象 : 一般
結婚して数年が経ち不妊に悩み始めた夫婦、16歳の誕生日を機に初めて実の父親に会いにいくことを決意した女子高生…。平凡な家庭に訪れる、かけがえのない瞬間を描いた6編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
この紹介文は、少し違うなぁ。
冒頭作
【虫歯とピアニスト】は、歯医者の受付をしている敦美の話。
敦美がファンであるピアニスト大西がその歯医者に来るところから始まる。
敦美夫婦は子どもがいない。
それを咎める姑と対峙した、夫の孝明がカッコいい。
孝明の姉もいい人で、敦美は恵まれている。
姑の気持ちを知った敦美がやや落ち込んだとき、大西の言った言葉に励まされる。
大西は過去に一時期、ヨーロッパへ逃げていたときがあった。帰国後はそれ以前とはまったく違う演奏で、それで敦美もファンになったのだったが。
人生イロイロあるのだから。
【正雄の秋】
入社以来競い合ってきた同期に、最後のところで負けた正雄。
内心塞ぎ込むが、表には出せない。
しかしひょんなことから素直になれて……。
まぁ、こううまく心の切り替えが出来るとは、なかなか思えないが。
【アンナの十二月】は、本当の父に会いに行った高校生の話。
実父は、有名な演出家だった。
その暮らしぶりに憧れ、これまでの暮らしが急に色あせて見える。留学費用も出して貰えるかなとまで、思うようになる。
母親の、毅然とした態度が気持ちいい。
また、級友たちの父親の、これまたまっとうな助言も頼もしい。
いや何より、それを素直に聞く耳を持った彼女たちが、好ましかった。
【手紙に載せて】
定年近くになって妻に先立たれると、男はなかなか立ち直れない。
亮と遙の父も、そうだった。
亮の上司が同じ経験をしており、ある日父宛に手紙をくれる。
それを読んだ父は、少し元気になったようで、上司への返信を亮に託す。
ここでは、若い者ほど、他人のこうした不幸はまさしく「他人事」だということが描かれている。
近所の住む中学時代の同級生は、母の通夜に来てくれた。
彼は中学時代に父親を亡くしているが、亮はそのころはそれこそ「他人事」としてしか捉えていなかった。
年を重ねるほどに、こうした哀しみはいや増すものである。
【妊婦と隣人】
早めに産休に入った葉子は、毎日が暇である。
隣に引っ越してきた夫婦が気になって仕方ない。あまり親しくしたくない様子で、行動も何となく謎めいている。
葉子はコップを壁に付けて隣の音を聞こうとする始末。
夫からは、神経が疲れているのではと言われて傷つく。
しかし……
という、若干ミステリじみた展開だったが、やはり葉子の行動が少しやり過ぎのように感じた。
【妻と選挙】
康夫は、賞を取ったほどの作家だが、最近はややマンネリ気味で、出版社からのオファーも少なくなった。
そんな折、妻の里美が市会議員選挙に出ると言う。
市民活動からの手弁当選挙だったが、いざ始まってみると、思いと実際とのギャップに悩むことになる。
次回作が連載ではなく書き下ろしになったことで時間が出来た康夫は、里美の選挙を手伝うことに。
やや落ち目とは言え、賞作家。
地元にはファンもいて、思いがけずいい展開になっていく。
大学生になった双子の息子たちは、普段は自分勝手な行動をしているが、この時はかなり協力的だった。
結果、家族の絆が強くなったようだ。
この体験を書くというのも、康夫の脱マンネリに役立ちそうな気がする。
如何ですか、康夫さん。ファミリーものが人気だったのだから、ユーモア仕立ての小説は?
作家が作家のことを書いていらっしゃるのは、興味深いことが多い。
文芸誌に連載したものを単行本にするという流れが普通なのか。
とすると、書き下ろしというのは、連載の企画にならなかったということ?
年に何冊もの場合は殆どが書き下ろしだろうが、連載から書籍化が普通の流れ(?)というのがちょっと驚きだった。
我が家のヒミツ
Kindle版価格:562円
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