浅田次郎【薔薇盗人】
価格:594円
カテゴリ:一般
発行年月:2003.4
出版社: 新潮社
レーベル: 新潮文庫
サイズ:16cm/343p
利用対象:一般
ISBN:4-10-101921-5
人間の哀歓を巧みな筆致で描く、愛と涙の6短編。
第一話【あじさい心中】
(カメラマンという)技術屋として仕事をしてきたつもりが、つぶしがきかぬことであっさりリストラされてしまう。
その父親に対する家族の反応が悲しい。
彼は温泉宿近くでストリッパーと出会う。彼女とのささやかな交流が哀しい。最後のシーンは、まさに絵だ。
この踊り子がかわいそうで、涙が出る。これから、どうして生きて行くのだろう。
ふと、連城三紀彦の【戻り川心中】を思い出した。全然関係ない話なのに。
第二話【死に賃】
親友が死んだ。彼は死ぬ間際に苦しまなくてもいいようにと、「死に賃」を払っていた。
自分はどうすべきか、と大内は考える。
10年もそばで仕えている秘書は、未だに独身である。だが社内で誰かいるようだ。
妻がなくなり、再婚した若い妻は勝手し放題。
自分の死に際を考えている矢先に、発作が起きてしまった。
1億というお金を出すことの出来る人たちの話だ。
現実味のない物語だし、あまりいい読後感は持てなかった。
第三話は【奈落】
庶務課課長代理の片桐が、外扉が開いてしまったエレベーターに乗り込んで奈落へ落ち、死んでしまった。
その通夜の夜、三人の女性社員の話が怖い。彼女らは、片桐の無能ぶりをあげつらい、一片の同情すら持たない。彼女らは、入社当時有能だった片桐を知らない。
また、通夜の席に残った二人の男性社員は、何か知っている。
片桐と同期だった二人は、片桐の死に何か真相があるのではと互いを疑う。
極めつけは社長と会長。
いずれも故人に対するひどい思いようが、罰を受けたのではないか。
ちょっとしたブラックユーモア的にも読める。
第四話の【佳人】は、なんといえばいいか。
少々ふざけていると取れなくもない。
「ババコン」ねえ……。
第五話の【ひなまつり】は、あまりにも哀しい。
東京オリンピック準備の頃だが、現在ではなく昭和39年のオリンピック。
東洋の魔女や裸足のアベベの話が出てくる。
小学六年生の弥生は、シングルマザーの母と二人暮らし。
隣の部屋にいた吉井は、そんな二人を何かと助けてくれる。
吉井が母と結婚したら、今の貧しい暮らしから抜け出せるかも。
吉井と母も、それぞれの思いがあって、なかなかうまくいかない。
だんだん景気がよくなって行く頃で、羽振りのいい人たちもいれば、弥生たちのようにギリギリで暮らしている庶民も多かった。
おひな様への祈りが通じて、いや母へのお願いが聞き入れられて、三人が幸せな暮らしを手に入れられますように!
表題作【薔薇盗人]は、客船のキャプテンである父親に、息子が手紙を書く形式で進んでいく。
何故か読んでいて、ドキドキする。これは、タイトルのせいもあるのだろうか。
少年の語る母の様子から、父は何を読み取るだろう?
少年の淡い初恋も、将来成就すればいいな。
その頃彼は、立派なキャプテンになっていることだろう。
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