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2019.11.03

向田邦子【隣りの女】

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著者:向田邦子
価格:627円
カテゴリ:一般
発売日:2010/11/10
出版社: 文藝春秋
レーベル: 文春文庫
利用対象:一般
ISBN:978-4-16-727722-2

人妻の恋の道行を描いた表題作をはじめ、おひとり様の恋心を衝いた「胡桃の部屋」、絶筆「春が来た」他、全5篇を収録した珠玉の短篇。【「TRC MARC」の商品解説】

何年かぶりで読みたくなった、著者の本。

表題作の【隣りの女】は、平凡な日々を送っている人妻のつかの間のアバンチュール。
つましい暮らしをしているようでいて、随分思い切ったことをする。

向田邦子さんって、意外とこういうシビアなものを書いていらっしゃったんだ。

【幸福】は、やっとつかみかけた幸せだがちょっとした瑕疵が見つかった。それを胸にたたんで、新しい生活に踏み出そうとする女性。
しかし、うまくいくのかなぁ。

【胡桃の部屋】は、辛い。

父親が家出して、残った母親と長女・長男・次女。
長女は未だ学生の弟妹を支えるため、付き合いも断って一生懸命働く。
気働きが効くように見えて、それが空回りしていく様子が切ない。

【下駄】では、出前を持ってくる店員が、思いがけず異母弟であったことに振り回されるサラリーマンを描いている。
顔つきから爪の形までそっくりな彼を疎ましく思いながら、一方では懐かしさも感じている。

弟の立場からすれば、もっと優しくして欲しかったのだろうが。

【春が来た】は、飛行機事故で亡くなった著者の遺作にあたるという。

全くの嘘ではないのだが、家や家族のことで少々見栄を張ってしまって、窮地に陥る娘。
一緒にいるときにハプニングがあり、彼に送ってもらう羽目になってしまった。

さぁ、どうする。

この家族に、つかの間の春が来て、だがやがて花は散っていった。

 

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コメント

向田邦子の作品は、幾通りもの読み方が出来るので
何度読んでも新しい。
『隣の女』、サチ子は性に奔放な隣の女が妬ましいと思っているのだけれど、
隣の峰子の方は、「でも、ちょっと素敵ねえ(結婚って)。悔しいけど」と
峰子の目に光るものがあった。←ここんとこの文章が素敵です。
これは向田邦子さんの気持ちじゃないのか、って
考えると、胸がきゅんとなった。
不満を持ちながらも、ちょっとした浮気があっても、
ミシンをふんでいても、家庭は残る。
峰子は、何人男をつくろうと、女としてはもぐり。
サイの河原の石積みみたいに、何も残らない。
峰子とは、向田邦子さんのことでしょう。

40年前当時の中年男性の憧れの的だった邦子さんですが、家庭を持つ夢だけは叶わなかった。
これは結婚に憧れていた向田邦子さんのお話しです。

投稿: としお | 2020.01.03 18:49

としおさん

コメントをありがとうございます

随分久しぶりに読んだ向田さんでしたが、やはり面白いですね。ちょっと皮肉も効いていて。

投稿: | 2020.01.05 17:45

読んで頂いて、有難う御座います。
以下は掲載して頂く必要はありません。
その後、小林竜雄の向田邦子、恋の
全てに記載されているのを見つけました。
隣の女、この話の基は、井原西鶴
の「好色五人女」の心中に至る
場面だそうです。姫路から大阪
まで、江戸時代徒歩で10時間
かかったそうです。東京からNY
まで飛行機で丁度10時間かかる。
それと、向田邦子さんは、NYで
ロケしたかったそうで、NYで
駆け落ちする話しにしたそうです。
昔の女は心中したけれど、今の
女はやり直すことができる。
「恋を殺してーーー夫を選ぶ」
と言うのが邦子さんの、最初の
台本だったそうです。でもこれじゃ
説明し過ぎて、役者としては、どう
演じて良いか分からない。と出演者
から、クレームが出て、桃井かおり、
根津甚八、と演出家の浅尾が、以下
のように書き換えた。向田邦子も
その書き換えに同意したそうです。
「ミシンが踏みたくなったの」
「帰れるかな」「昔の女は帰れ
なかったけど、あたしたちは帰れるわ」
「たくましいね」
要するに、浮気をしても、家庭に
帰る。と言うのが向田邦子さんの
テーマだったことが分かる。

投稿: としお | 2020.01.08 18:18

【胡桃の部屋】の桃子さんは、
向田邦子さんの若い頃(20歳台)
の自伝でしょう。

この本の父親は家を出て愛人のもとに
行きますが、実際の向田家のお父さん
敏夫さんも、家出はしませんでしたが
外に愛人ができていました。向田家の
弟は大学受験に失敗して2浪中(これも本の
中の弟と同じ)、邦子さんは、この時期、
弟の為に、家庭教師を2名つけてやっていた
そうです。邦子さんは安い給料のほとんどを
向田家に入れていたそうです。この事は妹の
向田和子さんが後に語っています。
本の中で、父親の部下だった都築は、
向田邦子の秘めた恋人だったN氏(中原氏)のこと
でしょう。父親の浮気を相談している間に
気がついたら、恋人になっていた。これは
邦子さん(本では桃子)の初恋の相手との
一面を描いたものでしょう。
でも、妻子のあった彼とは、不幸な結末
(邦子と妻子の板挟みになってN氏は自殺する。
この時邦子さん34歳、N氏47歳でした)
で終わる。邦子さんが妻子のある男性と恋を
したら、相手の家庭は崩壊してしまい、男は自殺し
かねない事を経験した。それで、邦子さんの
最晩年は、邦子さんは周囲の男性にもてもて、だったけど、
周囲は妻子のある男性ばかりなので、本気で恋は
できなかった。後妻の口を探したけれど、見合いの話しも
うまく行かなかった。収入の多い女は嫌だと断られた。
今の時代なら収入が多いのなら、20歳以上、上の
お姉さん女房でも結婚したい男は大勢居ることでしょうが。

投稿: としお | 2020.01.08 20:08

としおさん

興味深いお話しを、ありがとうございました。
随分前ですが、山口智子主演のテレビドラマを観ました。
向田さんの自伝的な話だったような。もう忘れましたが。

また色々読みたくなってきました。

投稿: | 2020.01.08 23:41

昨年11月22日は向田邦子の誕生日で生誕90年
だったそうで、NHKアーカイブスで、阿修羅の如くⅠ
3話、父の詫び状、向田邦子の秘めた恋(向田和子著)
愛猫、タイのコラット地方に住む銀猫、伯爵の称号を
持つマミオから見た、向田邦子を連続で放送していました。
合計10時間くらいか。邦子役はミムラさん。ビデオに
全て録画しました。

私は昔、阿修羅のごとくを見た時は、気持ちの悪い
ドラマで嫌だと思いました。なんで浮気ばっかりの
ドラマなのかと。でも、今は歳をとって、向田作品が
面白いと感じるようになりました。それで最近、
向田研究?にとり憑かれています。

投稿: としお | 2020.01.09 00:09

「隣の女」のテーマは家族ですが、
向田邦子の恋文(向田和子著)「旅先のポートレート」
大量に残された20代のポートレートを繰り返し、繰り返し見た。
一枚の写真にドキツとした。これって、そうだった
のか!カメラマンN氏と二人旅だったのだ。
N氏は妻子ある、13歳歳上の人。
「お姉ちゃん、そんなに好きだったんだ。駆け落ち
しても良かったのに、どうして踏み切れなかったの・・・」
ハタと思い当たった。姉は向田家の家族を捨てられなかった
のだ。姉は自分が向田家で、どういう存在なのか、わかり
すぎる程わかっていた。娘、長女の立場を超えて、向田の
家を支えようとした。
向田邦子が「家族」に強い執着を持っていた人だと
言うことが、和子の目を通して、語られている。

隣の女、NYの場面で井原西鶴「好色五人女」は
どうして出てくるか。向田邦子さんが実践女子
専門学校在籍時の卒論のテーマは井原西鶴
だったので、向田作品には何度も出てくる。

投稿: としお | 2020.01.12 08:19

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