青山美智子【猫のお告げは樹の下で】
著者:青山美智子
価格:770円
カテゴリ:一般
発売日:2020/06/04
出版社: 宝島社
レーベル: 宝島社文庫
利用対象:一般
ISBN:978-4-299-00530-4
失恋のショックから立ち直れないミハルは、ふと立ち寄った神社でお尻に星のマークがついた猫・ミクジから「ニシムキ」と書かれたタラヨウの葉っぱを授かり…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者の【木曜日にはココアを】が好きだったので、読んでみた。
とある神社に時折現れる猫。
おりしもやってきた悩みを抱えた人間に、葉っぱの「みくじ」をくれて去る。
その葉っぱには、カタカナで一言書いてあるだけだった。
章ごとのタイトルが「○枚目」とあるのは、葉っぱだから。
【一枚目】ニシムキ
最初の「お客」は美容師。
ケチだからというだけではないが、苦手な叔母が近所に越してきて部屋を訪れることになる。
叔母のマンションには、普通はあまり歓迎されない、「西向き」のお部屋が居間になっている。
しかしそこから見る夕暮れの景色は、素晴らしいものだった。
なんとなく敬遠していた叔母の意外な一面を知って、これからも時々来ることにする。
「ニシムキ」は、幸せの言葉だった。
【二枚目】チケット
小さい頃はかわいかった娘も、だんだん「親父」から離れていく。
そんな娘が父親に、「スマホを貸してくれ」という。アイドルのコンサートに行くには、スマホからチケットを申し込む必要があるのだ。
そんないきさつから娘と一緒にコンサートに行った男だが。
若い子たちの中に混じった中年男。しかしそのおかげで、アイドルはこちらに笑顔を向けてくれた。
ひそかにそのアイドルの歌を覚えて会場で一緒に歌う男が涙ぐましい。妻(つまり母親)が、いい感じで登場している。
【三枚目】ポイント
ポイントって、何だろう?
就活をしていても内定を一つももらえない「ぼく」は、バイト先の先輩がギターをくれるというので家を訪ねる。
時間があって立ち寄った神社で、「ミクジ」と出会う。
ミクジがくれた言葉は、「ポイント」だった。
それまで誰かに指示されるまま大学卒業間近になった「ぼく」だったが、それをきっかけに「自分の現在」を探そうとする。
先輩の竜三さん、父親から紹介された不動産会社の社長。
大事なことを気づかせてもらえた。
竜三さんがカレンダーのようなものにつけている「ポイント」は、「自分がありがとうという気持ちになったときにつけるのだという。
一枚一杯になったら、自分が本当に幸せだと思うと。
「ポイントがいっぱいになったら、すっげえ喜びがもらえる」という竜三さん
これって、まねしてもいいかな!
【四枚目】タネマキ
プラモデル屋を辞めたら、妻と老後を楽しもう。
そう考えていたのに、妻はサッサと家を出て行ってしまった。
「ワシ」が考えていたことなど、何も知らずに。
そのあとへ、息子の嫁が子どもを連れて住み込んだ。息子は単身赴任している。
この嫁が、実に口が悪く
【五枚目】マンナカ
これはかなりつらい話だった。
ぼく、深見和也は、地方都市から東京の学校へ転校してくる。
おかしいなと思っても気づかないふりでごまかし続けていたら、何かが少しずつずれていって、最後には元の自分がわからなくなって退職した山根先生。
それと対照的に描かれているのが、担任。なにもフリルのついた服を着せたりつけまつげをさせたりしなくてもいいと思うのだが、こちらは「分かってない人」の代表というわけか。
子どもというのはその時代の戦国で生きているから、時に残酷で容赦ない。言い方を変えれば、「長いものに巻かれて」いる方がらくだからだ。
養護教諭のようにドシドシと歩き(こちらも典型的な描写)、何者をも気にしない生き方は、なかなかできるものではない。
「マンナカ」とは、自分自身で見つけるもの。自分らしく生きられる場所のこと。
今回猫のミクジが、二度も現れてくれたのはよかった。
こんな猫、会いたいなぁ。
【六枚目】スペース
人生の様々な「スキマ」のはなし。
【七枚目】タマタマ
「偶然」星占いを知って行きつけの居酒屋で占ったら、それが評判になり……。
高校時代の友だちとも「偶然」出会って、さりげない付き合いが続いている。
彼の事務所へ行くことになり、その途中にあったのが件の神社。
個々に出てくる「玉木たまき」さんという老婦人は、素敵な方だ。
それぞれの話が、微妙につながっている。
神社への参道で、登場人物たちが知らずにすれ違ったり。
公文教室や【タマタマ】のともやんの事務所があるのが、同じ古いビルだったり。
最後の【ここだけの話】は、神官さんの語りという体裁をとって、登場人物たちの「その後」を書いてある。
神官さんも、無事「ミクジ」に出会うことが出来た。
ああ、「ミクジ」に会いたい!
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 中山七里【能面検事の死闘】(2024.12.02)
- 11月の読書メーター(2024.12.01)
- 北村薫【中野のお父さんは謎を解くか】(2024.11.30)
- 原田ひ香【あさ酒】(2024.11.26)
コメント