荻原浩【海の見える理髪店】
著者:荻原浩
価格:638円
カテゴリ:一般
発売日:2019/05/17
出版社: 集英社
レーベル: 集英社文庫
利用対象:一般
ISBN:978-4-08-745872-5
父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族の小説集。
短編集、第155回直木賞受賞作だという。
冒頭の表題作【海の見える理髪店】では、「ぼく」がはるばる評判のいい理髪店へ行くところから始まる。
その理髪店は、椅子の前の鏡に反対側の窓から見える海が映っているのだ。
ハサミを持った店主は、いわば堰を切ったように自分語りを始める。まさに一代記だ。
そして最後に明らかになる、驚愕の事実。
その少し前から「もしかしたら」という思いは浮かぶのだが、まさにこの日のために、店主は細々と営業していたのか!
【いつか来た道】
母親と仲違いして家を出ていた娘が、弟からの連絡で実家へ帰る。
母はやや認知症気味だった。
でも、こうした、子どもを支配したがる母親ってキライだ。
自分の母もこういう傾向があったから、徹底的に反抗的になってしまった。
母と娘というのは、相容れないことが多いのだろうか?
【遠くから来た手紙】
これも、夫の態度に我慢ならず、小さい娘を連れて実家へ帰った女性。
しかし実家は、すでに弟夫婦のものだった。
自分の部屋だったところも、弟たちの居間になっている。彼女はしかたなく、仏間で寝起きする。
元の部屋にある机に隠していた、独身時代の夫の手紙。
実際には夫からの連絡はなく、奇妙なメールが来る。
そしてそれは、戦死した祖父から祖母へ宛てた手紙のようだった。
「遠くから」とは、その世界を指している。
【時のない時計】
父親の動かない時計を持って、街の時計屋に赴いた男。
果たして修理代に値する品物だったのか?
【成人式】
これには泣けた。
親にとって、子どもを失うほど悲しいことはない。
この夫婦がなかなか吹っ切れないのも、非常によく判る。しかし、まだ5年だ。5年が20年になったから癒されるというものではない。
亡くなった娘は、成人式を迎える年になった。
あろうことか、二人で出席することにする。衣装も髪型も二十歳らしくして。
途中参加を躊躇するものの、娘の同級生たちの気配りで参加した。
参加してよかったかどうかは微妙だが、少なくとも参加せずに公開するよりは、マシだろう。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 江口恵子【普段使いの器は5つでじゅうぶん。】(2025.03.21)
- 堂場瞬一【英雄の悲鳴 ラストライン7】(2025.03.19)
- 篠田真由美【センティメンタル・ブルー】(2025.03.17)
- 【くらべて、けみして 校閲部の九重さん】(2025.03.13)
- 【Casa BRUTUS特別編集 器の教科書】(2025.03.11)
コメント