佐々木譲【遥かな夏に】
祖父を探していると女性は言った。祖母は安西早智子といい、未婚のまま出産、何も語らずに亡くなった。過去と現在が交錯する人生探しのミステリー。
殺人事件など起きない、著者の書くものと別方面の本書は【砂の街路樹】を思い起こさせた。
事件は起きないが、物語は極めてミステリアスで、グングン引き込まれる。
本城裕也は、勤務先が関係していることから「ベルリン映画祭」の世話係として同行する。
自身映画の脚本を作りたかったのが、実力を知ってあきらめた経緯がある。
1976年のベルリン映画祭には、日本から当時かなりセンセーショナルな扱いを受けた大島渚監督の『愛のコリーだ』の他に、『本陣殺人事件』が参加していたのだった。
こういう映画も映画祭参加が可能だったのかと、ちょっと驚き。
さて主人公の裕也は、大宮真紀という女性から「祖父ではないか」と尋ねられ、はからずもベルリン映画祭に関係した人たちを訪ね歩くことになる。
当時の関係者に会っていくうちに、「遙かな夏」が思い起こされてくる。
まだドイツが東西に分かれていた頃だ。
話の中で、懐かしい映画のタイトルが幾つも出てきた。
『ひまわり』『ブーベの恋人』
表紙絵の男性は、裕也か。背景の写真は、ベルリンでのもののようだ。
ここに映っている男性の中に、真紀が探していた祖父がいる?
終盤、真相がわかってからが感動ものだ。
芸術の世界にいても、否応なく政治に巻き込まれて翻弄された人生。
だが真紀の祖父について、あるいは「ひまわり」のアントニオについて男たちが語る感想(男の身勝手)には、やはり違和感がある。
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【砂の街路樹】(18.11.18)
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